第12章 大切な人を失った
墓地の外れの、寂れた一角まで歩いた所で、遼の足が止まった。
「また、先を越されちゃったかぁ」
「は?」
「あの、お花が供えてある所です」
「誰の墓なんでィ」
「父と母です」
にこりと笑って答えた遼に、沖田は言葉を詰まらせる。
「といっても、お骨も入ってないから、形だけなんですけどね」
「本当の墓は、故郷にでもあんのか?」
「いいえ。父も母も、骨が帰ってくることは出来ませんでしたから」
驚く沖田に「これも時代ってやつですね」と笑う。
「アンタの親父は、戦に参加してたのかィ?」
「……さあ、どうでしょう」
沖田の問いをはぐらかすと、殆ど無縁仏の様相の墓の前に座り、手を合わす。
既に供えられていた花束に、目頭が熱くなるのを感じた遼は、軽く唇を噛んで涙が溢れるのを堪えた。
先に供えられた花束の主のことを思うと、一層胸が締め付けられる。
沖田はあまりにも小さく弱いその後ろ姿に、改めて遼が年相応の少女だったことを思い出す。
遼の隣に座り墓石を見ると、名前すら彫られていないその姿に虚しさが去来した。
「墓参りに来たんなら、先に掃除するぜ。まあ、あんまり汚れてないみてぇだけど」
「ありがとうございます」
簡単に掃除を済ませた二人は、改めて花を供えて手を合わせる。
「聞いてもいいか?」
「答えられることなら」
「何で、こんな派手な花束なんだ。墓参りなら、仏花だろ」
「花言葉って、ご存知ですか?」
いや、と首を横に振る沖田に遼は風呂敷から小さな本を取り出す。
「花には一つひとつ意味が有るんですって。だから私は、お墓参りの時はこのお花って決めてるんです」
「で、この花の意味って?」
「『幸福』です」
遼の言葉に、沖田は驚いて何度も瞬きをした。
名前も残らぬ墓に納められた両親に、そんな意味を持つ花を供えるなんてどういう事かと思っていると、遼はぽつりぽつりと語り始める。
「最初はお供えに、仏花と好きだった食べ物なんかを持ってきていたんです。でも、いつものように花屋に寄った時、聞かれたんです「あなたの好きな花はどれですか」って」
「何て答えたんでィ」
「ありません、って。よく考えたら、供える花に意味なんて持たせてなかったなって」