第12章 大切な人を失った
「着きましたよ。沖田隊長」
アイマスクをずらして呼びかけると、不機嫌な目をした沖田と目が合い、遼は「おはようございます」と笑う。
「さ、行きますよ」
「面倒くせぇ……」
ぼやく沖田の手を取り、タクシーから降りると、足取り軽く境内へ向かう階段を上っていく。
古い寺だからか、人気がなくどこかもの悲しい雰囲気だというのに、遼の表情は明るく、沖田の疑問を深くしていった。
(こんな所に何の用が有るって言うんでェ)
考えてみると、沖田は遼についてあまり知らない。
知ろうとしなかった事もあるが、普段から遼は自身のことを語らないし、真選組に入隊するまでの事は履歴書程度の内容しか知らなかった。
「おや、遼ちゃん」
「ご住職。お久しぶりです」
「はは、元気そうで何よりだ。いつもの所に有るから持って行きなさい」
「有難うございます。お借りしますね。沖田隊長、ちょっと待ってて下さい」
遼は沖田に花束を渡すと、寺務所へと走って行く。
「遼ちゃんが、誰かとここに来たのは初めてだよ」
「はあ」
「君はきっと、遼ちゃんにとって大切に思う人なんだろうね」
「……ただの同僚っすよ」
「そうか。じゃあきっと、遼ちゃんは今、幸せなんだろう」
にこにこと笑う住職に、沖田の調子が狂う。
「お待たせしましたー!」
遼の手には、桶と柄杓。
「ではご住職、また後でご挨拶にうかがいますね」
「ああ、ゆっくりしておいで」
「行きましょう、沖田隊長」
引っぱられ、沖田は渋々後をついて行く。
暫く歩くと墓地が見えてきた。
墓地の入り口にある水道で桶に水を入れる遼に、沖田は呟くように声をかける。
「墓参りに来たかったのかィ」
「はい。もう少し奥にあるので、行きましょうか」
「それ」
「?」
「桶は俺が持つから、アンタは花束を持ってくれ」
預かっていた花束を押し付けるように遼に渡すと、桶を持ち上げ「早くしないと日が暮れるぜ」と促す。
「ありがとうございます」
「ん……」
照れているのか、ぶっきら棒な反応に、自然遼の口元も綻ぶ。