第12章 大切な人を失った
もごもごと歯切れの悪い答え方をする遼に、沖田は心配そうな瞳を向ける。
目が合って、遼は心底失敗したと思った。
病で姉を失ったばかりの沖田にとって「体調不良」なんて言葉は不安の種でしかない。
咄嗟に出たのは、ありきたりな嘘だ。
「古傷がなかなか消えなくて、植物に詳しい屁怒絽さんにいい薬が無いか聞いていたんです。ほらコレ、額の傷」
「……コイツはそう言ってますけど、本当ですかィ?」
「ええ、本当ですよ」
頷いた屁怒絽に、沖田は訝しがりながらも納得する。
遼は話を合わせてくれた屁怒絽に感謝しつつ、前髪を直す。
「でも遼、そんな傷いつ出来たんでィ」
「子どもの頃ですよ。銀ちゃんが投げた瓦がヒットして」
「なんでィ、万事屋の旦那にキズ物にされたのか」
「沖田隊長、言い方」
間違っていないが誤解を招く表現に、思わずツッコむ。
そんな会話をしていると、花束が出来上がった。
「はい、お待たせしました」
「わあ、素敵。ありがとうございます」
遼は屁怒絽に代金を払うと、沖田を引っ張って待たせていたタクシーに乗り込む。
「すみません。次は傳傳寺までお願いします」
「傳傳寺ィ?」
「小さいお寺ですけど、良い場所ですよ。緑に囲まれてて、静で……ご住職もいい方なんです」
「ふぅん」
興味なさそうに返事をする沖田と対照的に、遼はにこにこと満足そうにしている。
「ま、着いたら起こしてくだせェ」
「はいはい。暫くおやすみなさい」