第12章 大切な人を失った
「沖田隊長、居ますか?」
部屋の前で襖越しに声をかけるが、反応が無い。
「勝手に入っちゃいますよ~」
どうせ中でいじけてるのだと、遠慮なく襖を開ける。
「やっぱり居た。返事くらいしてくださいよ」
部屋の真ん中で横になってぴくりとも動かない沖田に、遼はずかずかと近寄ると無理矢理アイマスクを剥ぎ取った。
「一緒にお出かけしましょう」
薄目でこちらを確認する沖田に、遼は満面の笑みでそう告げる。
「そんなの遼一人で行けばいいだろ」
「まぁまぁ、たまにはいいじゃないですか。場所は行ってみてからのお楽しみって事で」
「SMクラブにでも連れて行ってくれるのかィ?」
「馬鹿な事言ってないで行きますよ」
沖田を引っ張り起こした遼は、そのまま引きずるようにして外へ連れ出す。
「いい天気ですね」
「そりゃあ遼の頭がか?」
「私の頭も、いい天気ですよ」
沖田の嫌味をさらりと交わすと、大通りに出てタクシーを拾い、運転手に「ヘドロの森まで」と頼んだ。
「ヘドロの森ィ?」
「銀ちゃんちの隣の花屋さんです」
どこかウキウキとした様子の遼に、沖田は「めんどくせぇ」と呟く。
「すぐ着きますから、寝ないで下さいよ」
ペしぺしと沖田の膝を叩いて念を押す。
暫く走ると、見慣れたかぶき町が見えてきた。
ヘドロの森に到着すると、遼は少し待ってて下さい、と運転手に頼み、沖田を引っ張って車を降りる。
「屁怒絽さーん、こんにちはー」
「ああ遼さん、こんにちは」
「花束を作ってもらえますか。えーっと、ピンクのバラと、かすみ草と……紫のラナンキュラスでお願いします」
「それは素敵ですね。お祝いですか?」
「内緒です」
ふふっと笑った遼に、屁怒絽は「すぐに用意しますね」と、花束を作り始めた。
「屁怒絽さんちのお花は、どれも優しい色をしてますね」
「いやあ、そんな事を言って貰えるなんて嬉しいですね。もっと頑張ろうと思いますよ。ところで遼さん、体の調子はどうですか?」
「今のところ、問題ありません。けど、目立ち始めたので、また相談にのって下さい」
「アンタ、どっか悪ィんですかィ?」
「あ、えっと……病気とかではないんですけど」