第12章 大切な人を失った
「男が泣いて良いのは、親が死んだ時と財布を無くした時だけなんだって、父さまが言ってました」
遼の声に、僅かに土方の肩が震えた。
土方の持つ激辛煎餅に目をやると、遼はぽつりと「ずるい人」と呟く。
後悔して、涙を隠すくらいなら、自分の声で、言葉で想いを伝えれば良かったのに、と余計な事を考えてしまい、涙が溢れそうになった遼は、慌てて顔を上げていつもより気丈に声を掛けた。
「と言うわけで、その涙と鼻水引っ込んで、沖田さんの前でいつもみたいにマヨネーズすすれるようになるまで、屯所帰って来ちゃダメですから。私判断でダメだと思ったら放り出しますから」
早口でまくしたてた遼は、さっと踵を返し、銀時の腕を取り歩き出す。
「行こう。銀ちゃん」
「おわっ!急に引っ張るなって!」
半ば引きずられるようにして屋上を後にする銀時は、最後に視界に入った土方の背中に苦笑した。
恐らく土方はそう時間を置かずして立ち直るだろう。
そして、気付く筈だ。
唇を引き結び、今にも泣きだしそうな表情で叱咤した遼が、土方にとってどんな存在であるのかを。
「ホント、うかうかしてらんねぇなぁ」
「?」
「こっちの話だ」
立ち止まった遼の頭を些か乱暴に撫でる。
遼は銀時の腕を掴んだまま、大きな溜息をついた。
「せっかく両想いだったんだから、傍に居れば良かったのに。離さなければ、離れずに済んだのに──……
なんて、部外者なのに八つ当たりもいいとこだね」
「ま、仕方ねぇだろ。それがお前の性分だからな」
「そうだね。……うん、後で目いっぱい謝るよ」
そう言って笑った遼の頭を、銀時はわしわしと撫でまわす。
遼は幼い頃から反省すべき点を見逃さない。それは美徳でもあるが、どれほど気を張って生きているのかと心配にもなった。
「よし、パフェでも食いに行くか」
「え?」
「お前が居なかった間の話をしてやるよ。まあ、あんまり楽しい話じゃねぇかもしれねぇけどな」
黙って頷いた遼の手を取って、銀時は病院を後にする。