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銀色の【銀魂長編夢】

第12章 大切な人を失った


子どもの頃は、世界はもっと単純で、希望に満ち溢れていた。
だから未来は……今より幸せなんだと信じていた。









【大切な人を失った】


 
 






足音だけがやけに響く病院の廊下で、遼は一人佇む。目の前には、目が痛くなるほど真っ白な重苦しい扉。

「やっぱり止めよう」

嘆息した遼は屋上で一息つこうと、部屋を離れた。
あの部屋の中には、沖田や近藤がいる筈だ。けれど遼には、そこに立ち入る権利も掛ける言葉もない。

「会ってみたかったなぁ…ミツバさん」

病で命を落としたという総悟の姉。
いつだったか、近藤が美人で聡明な人だと言っていた。
そして、土方と想い合っていたのだと。

「ミツバさんはずっと……副長だけを想ってたのかな」

どれほどに愛情深い人だったのだろうと、溜息が出た。
その生き方に、憧れると同時に虚しくなる。
自分は、想いなど、隠して、嘯いて──心の奥深くに山ほどの鍵を掛けて封印した。
封印したくせに、恋心を利用して生きている。そんな狡い生き方しかできない自分と違って、ミツバの想いはどこまでも純粋で美しい。
だからきっと、愛する人と添い遂げられなかったとしても彼女は幸せだったのだろうと思う。
屋上へ出る扉の前に立った遼は、溜息をつくと少し沈んだ面持ちで扉をそっと開いた。

(誰かの声がする)

視界が開けるほど扉を開けると、此方に向かって来る銀時と目が合う。

「銀ちゃん…と、副長」

少し体をずらせた銀時の向こうに座りこんでいる土方の姿を捉え、遼はどうしたものかと銀時を見上げた。

「よぉ。いつ帰って来たんだ?」
「ついさっき。屯所で、皆が病院に居るって聞いて……でも、銀ちゃんが何でここに?」
「詳しい話は後でな」

銀時は遼の疑問に気付きながら、そしらぬ顔ではぐらかす。
こうなっては、答えを聞くのは無理だと悟った遼は、諦めて土方に近付く。扉を開けた時から、土方が泣いている事には気付いていた。
涙の理由は、何となく知っている。
自分が口を出すことではない事も、よくわかっていた。
けれど、悔しくて、腹立たしかった。
遼は覚悟を決めるとぎゅっと拳を握り、項垂れた背中に声を掛ける。
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