第11章 閑話休題
沖田の理不尽な暴力に山崎が戦慄していると、呆れた遼が「何してるんですか」と声をかけた。
「出来るまで三十分位かかってしまうので、良かったらお風呂にでも入ってきてください」
「ありがとう、そうするよ」
「沖田隊長も」
「いや、俺はここにいる」
そう言って、沖田は近くの椅子に腰かける。
山崎は一言断りを入れると風呂に向って行き、遼は調理を再開した。
遼の背中を見ながら、沖田はぼんやりと今日の事を思い出す。人質になった際に着けられた傷は、それなりに深いものだったように思えるが、それにしては遼が傷を気にした様子がなかった。
生傷など、真選組に居ればそれなりに絶えないものだし、いちいち気にしていては仕事にならない。
「おい、遼」
「はい、何でしょうか?」
「傷はどうなってんだ。随分深く切られてたみてぇだが」
「……思ったより深くはなかったので、もう平気です。ご心配をおかけして、申し訳ありませんでした」
にこりと笑った遼の笑顔の裏に、何かが見え隠れした。
それはきっと、嘘や欺瞞といった、沖田が敏感に感じ取る感情だろう。
「別に、隠す必要なんてねぇのに」
「何か言いました?」
「いいや。つーか、腹減ったからできたやつから食わせろぃ」
「はいはい。じゃあ、卵焼きでも作りますよ」
「甘くないやつな」
「了解しました」
料理の手を再開した遼は、沖田の視線を気にしつつも卵をボウルに割り、かき混ぜた。色々と悩むことや思うことはあるが、きっと悩むのは今ではないのだと言い聞かせた。
ーつづくー