第11章 閑話休題
「非番の日に人質になったなんて副長に知られたら、始末書じゃ済まない──あ」
「まさかお前、公僕か!?」
うっかり口を滑らした遼は、誤魔化すようにえへへと笑うが、殺気立った犯人達に通用するはずもなく、銃を突きつけられたまま表に連れ出される。
「遼!!」
いち早く気付いた神楽に名前を呼ばれ、安心させるように笑おうとして失敗した。
背中にプスリと刃先が当たり、その痛みに顔を顰めてしまう。
それに気付いた観衆から悲鳴があがり、遼はしまったと軽く舌打ちした。
ずい、と前に出た犯人の一人が、最前線で武器を構える真選組に向かい声をあげる。
「真選組!この女が殺されたくなければ、武器を捨てて我々の要求に従え!!」
その声に応じるように、遼の背中に当たっていた刀が首元に添えられ、薄く傷をつけた。
出血するには十分な深さの傷だったようで、傷口から血が滲み、神楽が悲痛な声で遼を呼ぶ。
(このくらい大丈夫って言ってあげたいけど……中の人質がなぁ……ん?)
遼の視線の先に、こそこそと動く山崎の姿が見えた。
もしやと耳をすましてみると、僅かだが中の人質を救出する作戦を立てる声が聞こえ、遼は周囲の気配に集中する。
(多分、大丈夫。とりあえずはコッチの気を引かないと……でもなぁ)
突きつけられた刀や銃に恐怖感が湧いてこないのは、場慣れしているからなのか、それとも、明確な殺意を感じないからなのか。
ふと視線の先の神楽と目が合い、声に出さずゆっくりと「大丈夫」と答えると、少しだけ緊張が和らいだ。
そして漸く覚悟を決める。
(人質らしくなんてわからないから、とりあえず黙っておこう。後は多分、何とかなる)
耳を澄ませ、周囲の気配に集中すると、真選組が優位な状況である事が感じられ、ほっと息を吐いた。
瞬間、忘れていた傷口にピリッと痛みが走り、顔を顰める。
それに気付いた主犯格の男が、遼を抱き寄せてその首筋に短刀の刃を当ててニヤリと笑った。
「一分経過する毎に、この女の体に傷をつける!コイツを死なせたくなけりゃ、要求に従え!!」
見せしめと言わんばかりに短刀が引かれ、遼の体に新たな傷がつく。
いよいよ本気なのだと感じた遼は、ぐっと拳を握り込んだ。