第11章 閑話休題
こういう時は、下手に騒がない方が得策だ。
どうやら強盗犯は黙った遼を怯えていると判断したようで、マスクの下でニヤリと笑うと遼に銃口を押し付けたまま、じりじりと後ろに下がる。
集まったギャラリーの注目を浴びながら、遼は男の動きと背後で聞こえる複数の声や音に集中した。
(結構数が多いな。逃げられなかった人もいるみたいだし……)
背後の建物は銀行だ。
万一に備えた作りはしているだろうが、それに対応出来る人員が揃っているとは限らない。
(仕方ない。暫く人質になるしかないか)
建物内に連れ込まれると、男の仲間たちによって入口にバリケードが張られた。
銃を所持している者もいるが、大半は刀を所持している。
(攘夷を騙る不逞浪士か。数は……二十は下らないか……多いなぁ)
どうやら一人で対処するのは不可能だと悟った遼は、やれやれと溜息をついた。
人質の大半は行員のようだが、逃げ遅れた一般人の姿もあり、銃口を突きつけられたままの遼の姿を見て怯えている。
「おい、女」
「えっ、あ、私ですか?」
「オマエに決まってんだろ!こっちに来い!」
リーダー格らしき男に呼ばれ、遼は両手を頭の上に載せて近寄る。
所持している武器は拳銃と腰の刀。
使い慣れた風では無い様子から、遼はある程度実力差を推し量る。
(恐らくこの中に、真選組隊長レベルの剣士も、辰馬並みの銃の使い手もいない。私ひとりなら、相手に出来るけど……たまにはおとなしく人質になるか)
やれやれと溜息をつく遼に、苛ついた強盗犯達が各々武器を突きつけた。
その様子に、他の人質から悲鳴が上がり、銃声が轟く。
「騒ぐな!静かにしねぇとこの女が穴だらけになるぞ!!」
戦慄する周囲をよそに、遼は「ドラマみたいだな」などと暢気に構えていると、建物の外から駆け付けたらしい警察による呼びかけが聞こえてきた。
『警察だー、さっさと武器捨てて出てこーい。田舎のかーちゃんも泣いてるぞー』
その間の抜けた呼びかけに、遼は思わず顔を顰める。
声の主は、恐らく遼もよく知る人物だ。
彼が居るという事は、外を囲んでいるのは間違いなく真選組だろう。
(無事に帰れる気がしない……)
彼に無茶をするなと言う方が無茶だ。