第11章 閑話休題
玉ねぎを切っていると、復活した銀時が神楽と入れ替わりにやってきて手元を覗き込んだ。
「何作るつもりなんだ」
「オムライス。あ、いちご牛乳買ってきたから飲んでいいよ」
「お。サンキュー」
早速冷蔵庫を開けていちご牛乳を直飲みしながら、手際よく調理を続ける遼の姿を目で追う。
聞けないでいた体の事についてどう聞き出そうかと考え倦ねていると、襷掛けにした袖の隙間から妙に目立つ傷が目に入った。
「遼、その傷」
「ん?
ああ、この間任務中に斬られちゃって。傷口は広いんだけど、程度は軽かったからもう全然大丈夫だよ」
「─っ、そんな危ない職場、とっとと辞めちまえ」
「ふふっ、まるでお父さんだね」
くすりと笑った遼に、銀時は何とも言えぬ表情で「保護者みてぇなもんだからな」と答えると、いちご牛乳を空にしてゴミ箱に放る。
「なあ遼、お前の体の事だけどさ……」
「元気だよ。多分、今まで生きてきた中で一番」
「そりゃあ何よりだ」
うまくはぐらかされ、銀時は溜息をついて諦めた。
この話を続けたとしても、望んだ回答は得られないだろう。
仕方が無いと、話題を変えた。
「そう言えばさ、ウチの裏隣に花屋が出来たんだけどよ、近付くなよ」
「何で?」
「店主が滅茶苦茶コエーんだよ。なんだっけ、確か宇宙最強の傭兵部族でダキニとか何とか」
手を止めた遼は、零れ落ちんばかりに目を開いて銀時を振り返った。
その様子に、銀時の方が驚いてしまう。
「なっ、何だよ?」
「えっ、あ……ごめん。荼吉尼族が花屋さんなんてびっくりしちゃって」
「武闘派だし、見た目も殆ど鬼だからな」
「鬼、か……そうだね」
頷いた遼の表情はどこか寂しげで、銀時はその顔を覗き込んた。
「何か有ったのか?」
「何も。それより銀ちゃん、冷蔵庫の卵使い切っちゃっていい?」
「……好きにしろ。もう何が有っても知らねーぞ」
「ありがとう。まあ、何とかなるよ。出来たら声かけるから、もうちょっと待っててね」
銀時が台所を出て行くと、遼は殆ど無意識に頭を擦る。
ぼこりとした違和感は、あの時を境に一層ハッキリとした物になった。
銀時に秘密にする必要は無いのかもしれない。
ただ、
「嫌われたくないなぁ」
ほんの少し、目頭が熱くなった。