第10章 真選組の仕事
ひっそりとした長屋には、妙な緊張感が漂っている。
「原田隊長。奥から二軒目……男の声が。数は……四、いや、六」
「すげェいい耳だな」
驚く原田に、遼は口の端を上げて笑うと刀を抜いた。
「いつでも行けます」
「そうでなくちゃあな!
表から一気に攻めるぞ。山崎は裏口に回り込んで足止めを頼む」
「わかった」
山崎を見送り、原田と遼は目を見合わせ突入のタイミングを図る。
山崎が裏口についた気配を感じた遼は、目を閉じて十数え、原田に「今です」と合図を出した。
それと同時に原田が扉を蹴破って口上を述べる。
「真選組だ!神妙にして縛につきやがれ、不逞浪士ども!」
「逃げられませんよ!」
襲いかかってくる浪士を殴ったり蹴ったり踏んづけたり、切ったりして、三人は無事浪士を取り押さえた。
「屯所に連絡したから、直ぐに応援がくるよ」
「後は引き渡すだけだけどな」
やれやれと肩を回す原田と山崎の傍で、遼は取り押さえた浪士達を観察する。
いずれもある程度身なりは整っていて、強い訛りもない事から江戸近郊の浪士であり、近くに彼らを援助する者が居るのだとわかった。
「遼ちゃん、どうしたの?」
「あ、いえ……この人達はどの派閥かなって」
「爆弾って言えば桂一派の十八番だが」
「桂一派では無いと思います。彼らからは、信念が感じられませんから」
断言する遼に、原田は一瞬眉を顰める。
真選組に入隊して間もない遼のはずだが、桂一派に対して機知のような言い方だ。
「信念、な。攘夷浪士なんて、どいつも同じだろ。幕府に讐なすイカれたやつらだ」
「そう、……ですね」
「ホント、迷惑な奴らだよ。おかげで仕事が増えてしょうがないよ」
大袈裟に溜息をつく山崎に、遼はどこかぎこちなく笑う。
攘夷志士の立場もわかる以上、素直に同意は出来なかった。
遼は意識のある男に近付くと、にこりと笑ってその前で膝をつく。
「こんにちは。一つお聞きしても?」
「貴様ら幕府の犬に答える事など、っ!」
「拒否権なんてありませんよ」
刀の柄で男の顎下を押さえながら、遼は男の目を見据えて尋ねた。
「どこの手の者ですか?」
「わっ、我々は──」
男の言葉に、遼の目がすうっと細められる。