第8章 紅の桜のあとに
「信じなくていいよ。私も信じられないし」と、遼は溜息をつく。
「あの熟れすぎた西瓜みたいな、赤い髪が好きだったんだがな」
「それはどーも」
褒められているのかよくわからない賛美に、遼も適当な返事をして、改めて高杉を正面から見つめた。
「痛い?」
「何がだ?」
「左目」
遼は包帯の上から高杉の左目を優しく撫でる。
もうずっと昔の……十年も前の傷だという事くらい、遼も知っていた。
あの日、あの時、何が起きたのかは父から伝え聞いたし、父が「友を救えなかった」と零していたのを覚えている。
父が到着した時には全てが終わっていて、松陽の亡骸にさえ会えなかったと嘆いていた。
「父さまがね、ずっと言ってたの。代わってやりたいって。松陽と、銀時と、晋助と代わってやりたいって……自分なら、よかったっ、て……っ」
溢れた涙が言葉を詰まらせ、遼はキツく唇を噛み締める。
誰かが誰かの代わりになれば、別の悲しみが生まれるだけで、何一つ解決するわけでは無いことくらい、遼の父もわかっていたが、悲嘆に暮れ、袂を分かっていく銀時達の姿にそう思わざるを得なかったのだ。
幼い遼の記憶にも、離れていく彼らの背中は今でも暗い影を落としていて、思い出すと胸が苦しくなる。
「ごめっ、っ……は、私が泣いたって仕方ないのに……っ、ごめんね」
高杉は、泣き止もうと必死に目を擦る遼の手を掴み、抱き寄せた。
「着物に鼻水ついちゃうよ」
「上等だ」
優しく頭を撫でられ、遼は目を閉じて高杉に聞こえないほど小さな声で「ありがとう。大好きだよ、晋ちゃん」と呟く。
昔から情に厚く、けれどぶっきら棒で意地っぱりな高杉は、遼の憧れだった。
恋にもならない想いで彼を慕い、成長した今でもその想いは変わらない。
「泣き止んだら、次の話だ」
真っ赤な目をして首を傾げる遼に、高杉は「体の事だよ」と妖しく笑う。
「体って?」
「死にかけたってのは、何でだ?」
「話さなきゃダメ?」
「話したくなるように、体に聞くか?」
そう言って袷に手をかけられ、遼は慌てて「話します!」と高杉の手を押さえた。
「晋ちゃんタンマ!」
「もう、遅ぇ」