第8章 紅の桜のあとに
いつの間にかに帯が解かれ、袷から侵入した手が肌を滑る。
「ちょっ、ま」
「この傷か?」
左胸の、ほぼ心臓の上にある傷を撫でられ、遼は思わず目をそらす。
「言いたくねぇなら、全身検分するだけだぜ」
「変態」
「俺には知る権利があると思うが?」
「……怒らない?」
「どうだろうな」
きっと、どう話しても怒られるのだと諦め、ぽつりぽつりと話し始めた。
「父さまと母さまが亡くなって、とりあえず働かなくちゃって、伝手を頼って置屋でお手伝いとか用心棒とかしてたんだよね」
煙管を取り出し、煙を吐く高杉を見ながら話し続ける。
「そこで、天人が暴れて店の姐さん達が大勢殺されたの。気が付いたら私も血まみれで、足元には暴れていた天人が死んでた。勿論私も無傷じゃなくて、気を失って目が覚めたら、この姿になってた」
「傷は、胸だけか?」
「ううん。大分薄くなったけど、肩とかお腹とか足とか殆ど全身かな。見る?」
「いい。それよりその後どうなった?」
高杉の疑問に、遼は少しだけ戸惑うと、小さく折り畳んだ紙片を渡した。
「それ、私」
「……俺と同じ所まで落ちたのか」
「身体的特徴が違うし、男児ってなってるから、疑われた事はないけどね」
「悪かったな」
「晋ちゃんが気に病む事じゃないよ。これは全部私の責任だから」
そう言って笑う遼の鼻を、高杉はギュッと抓む。
「んあっ、な、何?」
「ガキのくせに、考えすぎだ」
「ガキじゃないよ」
不機嫌になった遼に、高杉はふっと笑って手を離した。
「俺には、いつまで経ってもガキだよ。だから、ガキのままで居ればいい」
その言葉に、遼は何も返せず俯く。
それをどう受け取ったのか、高杉は遼の肩を抱き寄せた。
「あと少し、黙ってこうしてろ」
「うん……」
高杉の体に凭れながら、遼は思いを巡らせる。
真選組に入隊してからこちら、賑やかだが楽しく穏やかな日々を過ごしてきた。
うっかり目的を忘れるほどに。
けれど、高杉と再会して思い出した。
まだ何も終わっていない。漸く始まりの場所に立てたのだ、何一つ無駄には出来ない。
「晋ちゃん、私ね……真選組に入隊したんだよ」
「そうか」
「やっぱり知ってたんだ。今は副長見習い補佐って立場で働いてるの」
「見習い補佐ねぇ……」