第7章 何でカタカナの名前?
「真選組に色仕掛けのお仕事なんて無いじゃないです、かっ、うわっ!」
隣に座る沖田に抱きつかれ、遼は思わず声を上げる。
「二十点」
「は?」
「男に抱きつかれたら、抵抗するかノるかしねぇと痛い目みるぜ」
「……じゃあ、抵抗しますね」
「へ?
いででででで!どこ掴んでんだ!!」
「変な言い方しないで下さい。色気についてはその内勉強させて頂きますのでご安心を」
抓っていた沖田の手の甲から手を離し、遼は溜息をついた。
沖田のセクハラ紛いの嫌がらせは、日に日に酷くなってきている。
近藤曰く、心を開いている証拠だという事だったが、遼には何か裏が有るように感じてしまい、その都度対応に苦慮していた。
(何か、探られてるような気がするんだよね……ん?)
ふと顔を上げるとバックミラー越しに土方と目が合い、遼は唇を引き結ぶ。
土方は変わらず遼を疑い、監視をしている。
それ自体は構わないのだが、その状況を心配した銀時がやたらと構ってくるのに辟易していた。
黙って土方と目を合わせていると、隣に座る沖田に耳たぶを引っ張られ「何やってんでぃ」と、つっこまれる。
「何もしてませんよ。とりあえず離して下さい」
「離してほしかったら、それなりに頼んでみろィ」
「沖田隊長、お手数ですが手を離して頂けますか」
「もっとM嬢っぽく」
「ぽさが解らないので、見本をお願いします」
遼が適当に返すと、ニヤリと笑った沖田はそのまま耳もとに唇を寄せ、ふうっと息を吐いた。
「う、っわぁぁっっ!」
ぞわりとした感覚に、遼が思わず悲鳴を上げると、沖田はゲラゲラと笑う。
「なっ、何するんですか?!」
「俺を揶揄おうなんざ、百年早えよ」
「テメーら車内でごちゃごちゃうるせぇよ」
「……すみません」
土方に注意され、遼は不承不承謝罪するが、沖田はいつも通りふんぞり返って「俺は騒いじゃいませんよ」と、ふてぶてしく答えた。
すっかり日常になりつつある風景に、山崎はこっそりと笑う。
普段から賑やかな集団だが、遼が入った事で雰囲気が少し変わったようだ。
「山崎、何ニヤニヤしてんだ気持ち悪ぃ」
「いえ、何でもないですよ」
上機嫌の山崎を訝しがりつつ、土方は煙草に火を点けて窓の外に煙を吐いた。