第5章 幕府特別武装警察真選組
思わぬ攻撃に、遼は「あっ」と短く悲鳴をあげ、体を傾ける。
その瞬間、土方は勿論、周囲も土方の勝利を確信した。
「なーんちゃって」
片足で踏ん張り、瞬時に体勢を変えた遼は、ぴょんっと後ろに下がると、土方目がけて竹刀をブン投げる。
「なっ!?」
真っ直ぐに向かってくる竹刀に驚いた土方は、慌ててそれを叩き落とすが、その一瞬、遼を見失う。
「甘いのはあなたの方です」
背後から聞こえた声に振り返ると、叩き落とした筈の竹刀を持った遼が不敵に笑っていた。
「!?」
「胴!」
避ける間もなく、遼の竹刀が土方の腹部に当たる。
だが、土方に衝撃はなく、竹刀は本当に「当たった」だけで、理解が現実に着いていっていない道場には沈黙が落ちた。
一早く状況に気付いた沖田が近藤の肩を叩き「判定は?」と尋ねる。
「い…一本!勝者、神武遼!!」
近藤の声に、水を打ったように静まりかえっていた道場に歓声が上がる。
「スゲェ!副長に勝っちまった!」
「マジかよ!」
「つか副長が負けるなんて…」
「土方コノヤロー、負けた感想は?」
ニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべながら、総悟が立ち尽くす土方に近付く。
「鬼の副長が女に負けたとあっちゃあ、武士の名折れですゼィ。介錯なら俺がしてやらァ」
そう言って総悟は刀を抜き、実に楽しそうに土方の首筋に刃を当てた。
「ちょっ、待ってください!」
今にもやっちゃいそうな沖田を制止したのは、遼の叫び声にも似た声だった。
「なんでぃ、情けをかけられたら土方さんのプライドが傷つくだけでさァ。というわけで、どんどん言ってやってくだせェ」
サディスティック星の王子が降臨した沖田は、遼に土方の傷口をえぐるよう促す。
「情けじゃなくて…今の仕合い、私の反則負けです」
「はぁ?」
「近藤さんが「剣道の公式ルール」とおっしゃったのに、私、副長さんに向けて竹刀を投げてしまいましたから」
「あ」
そう言えばそうだったと、隊士達は納得顔でぽんと手を打つ。
「だから、私の負けなんです……頭に血が上っちゃって、完全にルールを忘れてました」