第5章 幕府特別武装警察真選組
「トシ、少し冷静になれ。勝負は剣道の公式ルールに則った一本勝負。先に相手の面・胴・小手のいずれかに打ち込んだ方の勝ちとする。判定は俺が行う。二人とも、良いな?」
「ちっ、仕方ねぇ」
「わかりました。あの、有難うございます」
頭を下げた遼に、近藤は表情を緩ませて「怪我しない程度に頑張れ」と優しく声をかける。
遼は赤くなる顔に手を当てながら、にこりと笑い返した。
そして、土方と相対する。
「お願いします」
「すぐに終わらせてやらァ」
構えた二人を見計らい、近藤が道場を震わせるような凛とした声で合図をかけた。
「始めっ!!」
「行きます!」
先に動いたのは遼。
下段から土方の胴を狙うが、土方の竹刀はしっかりとそれを受け止めた。
「良い腕だ。テメェの流派は?」
「と……──師は、北斗一刀流の免許皆伝でしたが、私のはそれを基本にした我流です!」
受け止められた一刀を弾き返し、遼は後方に飛び退く。
一瞬の攻防だったが、実力を推し量るには十分な一撃で、遼は思わず土方を睨みつけた。
その表情に、土方の気配も険しくなる。
「我流か…成る程、なっ!」
今度は土方が面を狙って真っ直ぐに打ち込むが、遼はそれをあっさりかわして土方の小手に竹刀を振り降ろす。
「甘ぇよ!」
予測していた土方は、素早く竹刀から狙われた左手を引いて、再び遼の面目指して竹刀を振り降ろした。
遼はそれを寸手の所でかわして飛び退く。
「流石は鬼の副長。一筋縄ではいきませんね」
「たりめーだ。ガキに負けてたまるか。降参するなら今のうちだぞ」
「そうですね……今だったら、許してもらえます?」
「そうだな……屯所の雑巾がけくらいで勘弁してやるよ」
ニヤリと笑った土方に、遼は「悩みますね」と暢気に返すが、2人の間にはピリピリとした空気が漂っている。
「とりあえずは、保留でお願いします」
床を蹴った遼は、下段に構えて土方に突っ込む。
掬い上げた竹刀は当然受け止められ、鍔迫り合いの状態になる。
ミシミシと、競り合う竹刀の音に、遼の気が一瞬緩み、膝を折った所を土方は思わず足払いをかけた。