第3章 万事屋銀ちゃん
顔を真っ赤にして逃げるように寝室に入って行った遼に、銀時は顔を青ざめさせる。
「ちょっ、何あの反応?!やっぱり新八と何かあったのか?」
「そんなわけないアル。手ぇ出すほど新八は度胸ないネ」
「いや、だけどアイツみたいに奥手なヤツの方が一回味をしめたらハジケるっつーか…」
頭を抱える銀時に、神楽は冷ややかな目を向けながら「私ももう寝るアル」と、寝床に向かう。
ふと、風呂での遼を思い出し、尋ねてみたくなった神楽は銀時を振り返った。
「銀ちゃん……もし、遼が「普通の女の子」じゃなかったら、どうするアル?」
「は?」
唐突な質問に、銀時は眉を寄せるが「んなの知らねーよ。どうにでもなんだろ」と、投げやりに返答する。
「どうにもならない過去だってあるアル」
「だとしても、どうにかするさ」
頼りになるんだかならないだかわからない返答に、神楽は「わかったアル」と、押し入れに消えていった。
「普通、ねぇ……」
神楽が何をもってそう思っているかは知らないが、銀時の記憶の中に居る遼は普通とはほど遠い子どもだったように思う。
攘夷志士の父親について戦地を渡り歩いていた遼は、戦慣れした感覚で生きていたし、子どもだてらに薬や治療にも精通していた。
それに、自分たちを兄のように慕ってついて来ていた遼の姿は今でも覚えている。
「そういえば、最後に何て話したんだっけ……?」
何か、酷い言葉を投げた気がする。
「あー、何かモヤモヤすんなぁ」
最後に会った時、遼は泣きすぎて腫れた目で銀時を真っ直ぐに見据えていた。
師を失ったばかりで身も心もボロボロだった銀時にとっては、その姿は煩わしい存在で───
『何でみんないなくなっちゃうの?』
『またみんなで、がんばろうよ』
『行かないで、銀ちゃん』
『私、強くなるから。とうさまの代わりに戦うから───』
「……お前みたいなガキには、何にも出来ねぇよ。さっさと居なくなれ。二度と俺の前に現れるなよ」