第3章 万事屋銀ちゃん
思い出して、吐き気がする。
何という極悪非道。
ジャンプの主人公なら絶対言わない。
優しさの欠片なんて一片もない言葉だった。
自分の台詞なのに、銀時は静かにダメージをくらう。
「覚えてるよな……」
まだ起きているかもしれないと寝室の襖を開けると、こちらに背を向けて布団に包まっている遼がいた。
「もう寝てるか?」
「ん?まだ起きてるよ」
起き上がってこちらを向いた遼に、銀時は少し言葉を詰まらせる。
「どうかしたの?」
「ん、や、あのだな……何か色々悪かったな」
「私、銀ちゃんに謝られるようなことあったっけ?」
「昔の事とか」
「昔って……ああ、おでこの怪我のこと!」
「もう傷も目立たないし大丈夫だよ」と笑う遼に、罪悪感が増す。
額の傷は、銀時と高杉が例のごとく揉めていた時に偶然付けてしまったものだが、当時は相当に慌てたのを覚えている。
「でも、私も頑丈だよね。瓦が頭に激突したのにこれだけの怪我で済んだし、頭突きでヅラに勝った事もあるしね」
「そんな事もあったな」
「懐かしいね」
屈託なく笑う遼に、胸が締め付けられた。
何か言葉を掛けなければならない気がするのに、言葉が出てこない。
「銀ちゃん?」
「ん、ああ……懐かしいな」
「大丈夫?もしかして疲れてる?」
歯切れの悪い銀時に、遼はずいと近付いて顔を覗き込む。
すっかり大人ぽくなった表情に、心臓が跳ね上がった。
柔らかそうな頬や唇。
黒い瞳は、どこか憂いを帯びていて……
「黒……?」
過った疑問に首を傾げる。
そして、思い出した。
「何でお前、髪と目の色が違うんだ?」
「思い出したんだ……忘れてくれて良かったのに」
「忘れてって……」
「一応言っておくけど、私は遼本人だからね。髪と目はまあ……適応した感じ?」
「疑問形かよ」
「だって私もよく分からないから」と笑う遼に、これ以上この話をしても仕方がないとため息をつく。
「色々聞きてェ事はあるが、後は明日にするか。おやすみ遼」
「うん。おやすみ銀ちゃん」
小さな疑問を抱きながらも銀時は眠りについた。