第14章 表と裏(作成中)
「まだ、俺の相手にゃならねぇよ」
「……そうだったみたいだね」
見下ろしてくる高杉を睨みながら、遼は悔しげに舌打ちする。
ゆっくりと膝をついた高杉は、楽しげに目を細めて遼の頰を撫でさすった。
「暫く俺の籠の中に囚われてろ」
「いや。もう帰るから──っ」
「拒否権なんて、今のお前にはねぇよ」
高杉が微笑んだ次の瞬間、遼の首筋にチクリと痛みが走る。それが何かを理解するとほぼ同時に、遼は深い眠りに誘われた。
「晋助、良かったでござるか?」
「良いも悪いもねぇよ。俺ぁもう、コイツの望みは叶えられねぇからな」
「そうか。では拙者は計画通りにさせてもらうでござる」
まるで壊れ物を扱うように遼を抱き上げた高杉を横目に、河上は真選組へと向かう。
何が起きようと、もう鬼兵隊は止まることは出来ないのだ。それが例え、全てを失うと知っていても。
「眠り姫が起きるまでに全てを終わらせよう」
真選組を壊滅させ、近藤勲の首級を上げるのが河上の目的だが、その裏には天導衆を初めとした政治の力も働いていた。
日の本を歩く真選組は、幕府にとって──その裏で暗躍する定定にとって目障りになりつつあるのだろう。
「さて、どこから崩して行くか……まずはあの、伊東という男と計画を詰めるしかないでござるな」
仄暗い感情に支配されている伊東鴨太郎は、高杉や鬼兵隊にとってとても操りやすい存在だった。
プライドが高く理想を掲げて先導している割に、人望が弱い。そして、副長である土方との不仲。
「いや、あれは嫉妬だな。醜く愚かで、真実から目を背けたがる男そのものだ」
おかげで河上の計画は捗っていたが、遼の出現により事情が変わりつつ有った。
高杉は真選組の壊滅を望んでいる。
一人、修羅の道を歩む遼の足を止めるために──
「やはり、変わらぬな」
鬼兵隊を作った時のように、攘夷戦争にその身を投じた時のように、高杉はいつも「誰か」の為に動く。
その思いに惹かれたからこそ、河上はここまで着いてきた。これからも、その覚悟は変わらない。
最期の瞬間まで高杉と共に生きる。
高杉の往く途を護るために。
「拙者は拙者の仕事をするでござるよ」
真選組解体の為に、河上は静かに一歩を踏み出した。