第14章 表と裏(作成中)
自宅に戻った遼は身の回りを片付けると、真選組の隊服とは異なる濃い藍の装束に身を包み目的地へ向かう。
そこで得た情報を確認した遼は、やはり彼に会わないとならないのかと、溜息をついた。
「幕府に春雨なんて、嫌な予感しかしないよね。
ねぇ、晋ちゃん?」
振り向いた先では、煙管の煙を薫らせる高杉の姿。
傍らには河上が控えている。
「遼、何の用だ」
「知ってるくせに聞くなんて性格悪くない?」
肩を竦めた遼に、高杉はくっと喉を鳴らした。
「俺が知ってるのは、テメェが犬だって事だけだ」
「ああ、真選組の事?」
「いや。水戸藩天狗党に連なり、松田流の忍として水戸藩に仕える犬だな」
見開かれた遼の目が揺らぎ、高杉はふうっと長く煙を吐く。
「どうして晋ちゃんが水戸藩の事まで……まさか、」
「その、まさかだよ。お前は昔から詰めが甘ぇ」
「そっか。じゃあ、嘘ついても仕方ないね。そうだよ…私は今、真選組隊士として幕府に仕えながら、倒幕派として水戸藩に居る」
はっきり「倒幕派」だと告げた遼に、控えていた河上は僅かに驚いた。
佐幕派の松平率いる真選組に有って、反幕ではなく明確に武力を持って幕府を解体しようとする意思を示しているのが倒幕だ。
「お主、死ぬ気でござるか?」
思わず問いかけた河上に、遼はにこりと笑って首を横に振った。
「私、割と頑丈なんですよ。ね、晋ちゃん」
「殺されても死ななかったくれぇだからな」
「死ぬ気も殺される気もないから、私の邪魔しないでよ」
「お前が俺の邪魔をしねぇならな」
首筋に当てられた刀に、遼はニヤリと笑い自身の得物に手を掛ける。
「これでも真選組副長補佐なんだから、甘くみないで──っ!」
高杉の刀を弾き返そうとした瞬間、足首に違和感を覚えた遼は河上を振り返り睨みつけた。
「二対一は卑怯じゃないですか?」
「拙者は武士ではござらんのでな」
「では私も、武士ではないのでっ!」
足首の糸を無理矢理引き千切った遼は、高杉の刀を軽くいなして距離を取る。
糸の絡みついた足首からは血が滲み、痛みからか遼の体は一瞬油断を覚えた。次の瞬間、河上の糸は遼の四肢を束縛し、地面に這いつくばらせる。