第14章 表と裏(作成中)
「この一撃が伊東さんの体に当たったら、今日は勘弁していただけませんか?」
「君の実力では、掠る事さえ無理だと思うが…まあいいだろう。今日は見逃してあげよう」
「ありがとうございます。では、行きますね」
遼は十分に距離を取って軽く深呼吸すると、伊東めがけて竹刀をぶん投げる。
「なっ!?」
真っすぐに向かって来る竹刀に驚いた伊東は、寸での所でそれを叩き落とすが、その一瞬、遼を見失った。
「私、性格悪いんですよ」
背後から聞こえた声に伊東が振り返ると、叩き落したはずの竹刀を持った遼が不敵に笑う。
「という事で、今日はこれで終わりですね」
遼の持った竹刀の先が腹部に当たっているのに気付いた伊東は、眉間の皺を深く刻んだ。
「こんなのは無効だ」
「そうですね。では、再戦は後日でお願いします。これ以上伊東さんの剣を受け続けたら、手がおかしくなってしまいますから」
そう言ってやや痺れた手を振って見せると、益々伊東の機嫌が悪くなる。
(どう有っても、私が好かれる事は無いな)
半ば諦めのような気持ちで溜息をついた遼は、今の1戦を思い少しだけ懐かしくなった。
「何を笑っている?」
「いえ。何でもありませんよ。では私はこれで失礼致します。仕事が残っていますから」
頭を下げ、竹刀を片手に道場から出ると、にやにやしている沖田と目が合い、遼は眉をひそめる。
「居たなら止めて下さいよ」
「まさか、同じ方法で勝っちまうとはな」
「……無効試合みたいなので、他言無用でお願いします。口止め料として、食堂の冷蔵庫に有る不死身屋のプリンをどうぞ」
「安い口止め料だな」
皮肉っぽく笑った沖田に、遼は「手持ちが無いので」とおどけてみせた。
「ま、土方のヤロー以外には黙っててやるよ」
「副長に知られるのが一番マズい気がするんですけど……では、私はこれで失礼しますね」
「今から見廻りか?」
「いえ、ちょっとした任務で。あの……」
言いかけた言葉を飲み込んだ遼は、少し悩んむとにこりと笑って敬礼する。
「では、行ってまいります」
「あ、おう」
そう言って慌ただしく駆けて行った遼の後ろ姿に、沖田は一抹の不安を感じながら伸ばしかけた手をゆっくり降ろした。