第14章 表と裏(作成中)
少しだけ、予感が有った。
真実に近付いている。そしてこれは、遼にとって分岐点であるのだと。
「春雨に、天導衆……江戸幕府。それから、松陽先生──」
悲しむ彼らの顔など見たくないのに、遼が目的を果たそうとすればするほど、辛い現実に彼らを晒してしまう。
「考えても仕方ない、か。先ずは武器の出所を突いてみないと」
会計方に明細が残っているだろうと確認に行き、殆ど確信を得た遼は帰る前に道場を除いた。
「珍しい。誰も居ないなんて」
がらんとした道場に入り、脇に投げられた竹刀を持ち上げて片手で軽く振り下ろす。
ヒュンと空気を切る音が響き、遼は僅かに口の端を上げた。
「少しだけ稽古していこうかな」
両手で竹刀を握り込むと、すっと背筋が伸びて自然と体に力が入る。
北斗一刀流の型から香取神道流の型へ。
最後は――
「見慣れない型だな」
「っ!」
「子供の手習いかと思ったが、それなりに様になっているようだ」
「伊東、先生……」
「ふっ、君に「先生」と呼ばれるとは思わなかったよ」
くいと眼鏡をあげて嫌味たらしく笑った伊東に、遼は慌てて竹刀を後ろ手に隠した。
「も、申し訳ありません。では、私はこれで」
「北斗一刀流だけでなく、香取神道流剣術まで習得しているとはね。君は一体どこの出身なんだ?」
「ここに来る以前は京に――」
「僕は出身を聞いたのだが?」
逃がさないと言わんばかりの伊東の物言いに、遼はごくりと喉を鳴らす。
「出身は、周防です」
「長州藩か。成程ね…では君は、倒幕派かな?」
「ご冗談を。ただの出身地ですよ」
「そうか。だが香取神道流はそちらの流派ではなかったと記憶しているんだが、僕の記憶違いだろうか」
確信を持って嫌味を言ってくる伊東に、遼は僅かに苛立ちながらもにっこりと笑った。
「そうですね。香取神道流は下総国で興ったと聞き及んでいます。私に剣術を教えて下さった方は、諸国を旅している侍だったので、そちらの出身だったのでしょう」
「ああ、そういう事か。では、その後君が繰り出そうとした型については?」
「…我流ですよ。これでも私、京の置屋で用心棒をしていましたので」