第14章 表と裏(作成中)
話を逸らした沖田は、伊東と近藤に「あっちでゆっくり話やしょうや」と言うと、遼を置いてさっさとどこかに行ってしまう。
取り残された遼は小さく溜息をつくと、彼らとは反対の方へと歩き出した。恐らくこれ以上伊東に関わっても良い事は無い。
「伊東さん、か。何か真選組っぽくない人だったけど……山崎さんにでも聞いてみようかな」
監察の控室に向かうと、何故だか落ち込んだ様子の山崎が黙々と書類整理を行っており、遼は「なんか嫌な空気だな」と思いつつ声を掛けた。
「山崎さん、こんにちは」
「あ、遼ちゃん」
「ちょっとお聞きしたいんですが、今宜しいですか?」
「うん、どうかした?」
書類から目と手を離した山崎は、軽く伸びをして遼に近くの座布団をすすめる。
「お邪魔します。実はさっき、伊東さんって方とお会いしたんですけど……」
「ああ、伊東先生ね」
「先生?」
「そうそう。真選組に入って一年ちょっとなんだけどね、北斗一刀流の免許皆伝で、しかも政治方面の戦術にも強いエリートなんだよ。局長何かは伊東さんを「参謀」ってポストにつけて重宝してるけど、副長とはそりが合わないみたいでさぁ」
溜息をつく山崎に、遼は「やっぱり」と肩を竦めた。知恵者といった雰囲気の伊東は、口が悪いものの見た目はどこか洗練されていて育ちの良さが感じられた。
(叩き上げで、近藤さんに惚れこんでる副長は、伊東さんみたいなエリートは癇に障るんだろうな)
そもそも土方とうまくやれてるのを近藤以外に知らないが、それにしても相性が悪そうだと思ってしまった。
「まあ、伊東さんのおかげで幕府との交渉もスムーズになってきてるからね」
「政治的な交渉がお得意なんですね。だから「先生」ですか」
「そういう事。まあ、実際俺たちには出来ない高尚な取引はあの人が専門だから、そう呼びたくなる気持ちはわかるんだけどね」
苦笑する山崎に、遼は内心納得する。
無頼派の多い真選組は、その成り立ちもやはり武骨なものだ。”武士”と名乗ってはいるが、その実武家出身の者は殆どおらず、局長の近藤でさえ田舎の剣術道場の跡取りと言う程度で、幕府高官からすれば田舎者の集まりに過ぎない。
学もなければ地位も名誉もないのが『真選組』だ。