第14章 表と裏(作成中)
見廻りから戻って来た遼は、いつもより賑やかな様子の屯所に首を傾げた。
「お客さんでも来てるのかな?」
些か浮足立っているような空気に、遼は妙な不安感に襲われる。
何か、良くないことが起きそうな予感がした。
「首の後ろがざわざわする……ん?」
広間から近藤の声が響いてきて、遼は何事かとこっそりそちらを覗きに行く。
部屋に近付いた瞬間背後から声を掛けられた遼は、飛び上がらんばかりに驚いた。
「帰ってたのか」
「うわっ!
沖田さん、急に声かけないで下さいよ。びっくりするじゃないですか」
「声かけんのに、どうやって予告すんでぃ」
「それはまあ、そうですけど……」
「おっ、総悟に遼ちゃんじゃないか。丁度良かった」
二人のやり取りを聞きつけて現れた近藤に、遼と沖田はほとんど同時に振り返りその人物を確認する。
(隊長服?)
「伊東さんじゃねぇですかい。いつお戻りで?」
「つい先頃だよ。ところで近藤さん、真選組はいつから寺子屋のまねごとを始めたのかな?」
「へ?」
「僕の目の前に、真選組の隊服を着た子供がいるんだが」
伊東と呼ばれた男に睨みつけられ、遼は何度か瞬きを繰り返した後、宣戦布告と受け取ってにこりと微笑んだ。些かぴりついた空気に、近藤が慌ててフォローを入れる。
「い、伊東先生、彼女は神武遼さんと言って、少し前から真選組の隊士として働いてくれてるんだ。確かに若いが、剣の腕も中々で――」
「はあっ。近藤さん、僕は真選組が志の高い武士が集まる場所だと思っていたのだが」
大仰な溜息をついて嫌味を言う伊東に、流石に遼の笑顔もひくつく。
土方も最初は大概遼を嫌っていたが、それでもここまでではなかった。
(いや、副長も結構露骨だったな。似た者同士なのかも)
貼り付けていた笑顔をやめた遼は、伊東の顔を真っすぐに見つめてその真意を探る。
眼鏡の奥の瞳はどこか冷たく、明らかに遼の事を軽蔑していた。
(嫌われるのは慣れてるけど、この人のは……)
自分を通して”誰か”を見ているように思えて、遼は僅かに眉間の皺を深くする。
「伊東さん、アンタが仕入れてきた武器について聞きてぇんですけど」