第13章 囮捜査って禁止されてるよね
数十分後。
時計を確認した遼は、軽く伸びをすると「行こうか」と新八に手を伸ばす。
「あ、はい」
遼の手を取りながら、新八は少しだけ後悔していた。今回の依頼を受けなければよかったと思っている自分がいる。それはただ……
「新八くん、大丈夫?気分悪い?」
「いえ、大丈夫です。行きましょうか。あ、出る時は一応警戒してくださいね」
「うん」
なぜかよそよそしい新八に首を傾げつつ、遼は隣を歩いた。
ホテルを出ると、明らかに敵意の混じった感情が向けられ、遼は新八と目を合わせて小さく頷く。
「新八くん。もし……先に私が狙われたら、急いで逃げてね。お妙さんに顔向け出来なくなっちゃうから、怪我しちゃ駄目だよ」
「遼さん、そんな事──」
「そろそろ来るよ」
ひたひたと近付いてくる足音に、遼と新八は気配を研ぎ澄ました。
今日は囮のため、腰に刀も木刀も佩いていない。いざとなれば、監視の沖田が取り押さえる手筈なのだが、万一に備えて遼の袂には小さなスタンガンが入っている。
(まあ、殴った方が話が早いんだけど)
武力で解決する方が性に合っているのだが、曲がり形にも警察官だ。可能な限り穏便に事を済ませたい。
繋いだ手に少しだけ力を入れた遼は、背後の足音と敵意が十分に近付いた所で振り返ろうとして失敗した。
「あっ……!」
手を引かれ、新八の腕の中に収まった遼は、状況が理解できず一時思考停止する。
抱きしめられた腕の中で、ボカスカドゴバゴと暴行を加える音が聞こえて慌てて我に返った。
「新八くんっ!」
「?」
見下ろされ、遼はぱちくりと瞬きする。新八は少し困った顔をしているが、危害を加えられた様子は無かった。
「えっ?あのっ……」
「新八ぃ、もう遼離して良いぞ。つーか、いつまでくっ付いてるつもりだ?」
「ああ…すみません、大丈夫ですか?」
「う、うん」
頷いて新八から離れた遼は、ゆっくりと後ろを振り返り言葉を失う。
「何でぃ、人の顔ガン見して」
「状況を説明して頂けると嬉しいのですが」
「襲い掛かる前にボコボコにした」
沖田の足の下には、遼達を襲おうとしていた人物が居た。その姿は──
「天人……」
「だな」