第3章 夢と現
あさひの正室お披露目の式と宴は、とんとん拍子に決まり、城が慌ただしくなった。
あさひも、作法や客人の名前や出身地など簡単な事を覚えるために、その日まで指南役がついた。
「光秀さん、少し休憩しましょうよ。」
『またか? もう時間がないのだぞ。』
「でも、会ったこともない人の名前とかを覚えるなんてきついです。」
『では、信長様の許嫁をやめるか?』
「それは…、嫌です。」
『では、やるしかないな。ほら次だ。』
「え、休憩は?」
指南役に適任の光秀は、半ば強引に新しい知識を詰め込ませていく。
あさひの頭は破裂しそうだった。
『甘味食べて頑張れ。』
「政宗!」
『光秀は、厳しいからな。』
「政宗がアメで。光秀さんが、ムチって感じ。」
『はっ、そうかもな。』
政宗は笑いながらあさひの隣に腰かけた。
『もうすぐお披露目だ。あさひの席の近くには光秀が座るようだから、安心していればいい。』
『俺は助けないぞ。』
「え、光秀さんひどい!」
『着飾って、信長様の側にいたらそれでいいんだ。』
「…でも、やっぱり信長様が恥ずかしくないように頑張らなきゃ。政宗のきなこ餅でやる気出た!
光秀さん、続きやりましょう!」
『ほう、そうきたか。』
『じゃあ、俺も付き合う。』
文机には政宗と光秀と、あさひ。
少しだけ日差しを帯びた風が柔らかに三人の周りを包んでいた。
※※※※※
『打ち掛けは、この深紅のもので小袖はこちらにいたします。帯と帯紐は…』
「あ、秀吉さんに頂いたものにしたいです。」
『わかりました。扇子はこちらで。簪は、』
「政宗からの頂いたものにしたいです。」
『では、もう一つは落ち着いたこちらにしましょう。』
お披露目の式に着るあさひの着物選びが女中と始まった。
その場には信長もいる。
「これで、大丈夫ですか?」
『あぁ。』
「変じゃないですか?」
『大丈夫だ。貴様は貴様だ。』
「そうですけど、。」
『緊張など必要ない。形式ばかりのものだ。誰にも異論は言わせぬ。自信を持て。』
「はい。」
信長の優しさに女中も微笑むと、あさひも柔らかく笑うのだった。