第12章 始めの一歩
「もう、疲れました。光秀さん、休憩。」
『お師匠と呼べ。』
「み、つ、ひ、で、お師匠、疲れました!」
御披露目の一騒動が落ち着いたある日。
舞の稽古と政の指南を続けて受けた、あさひの頭は破裂しそうだった。
『まぁ、仕方ない。お迎えが来たようだし。
続きはあとでな、愛する弟子よ。』
「え、お迎え?」
光秀の視線の先に振り返ると、柱にもたれ掛かって含み笑いをする信長がいた。
『あさひ、光秀に弟子入りか。良い。
さぁ、来い。広間で話がある。』
「話?」
信長はあさひの手を取ると広間へ向かう。
光秀もその後を追った。
広間には既に、秀吉、三成、家康、政宗が揃っていた。
下座には、いつもあさひを世話する女中と、あの時城下で身を呈して守ろうとした秀吉の家臣二人が頭を垂れていた。
信長は、あさひと共に上座に座る。
「私は、あっちでいいです。」
末席を指差すあさひ。
『貴様はここだろうが!』
そう言って座らせる信長。
その二人の姿を見る五武将。
『もう慣れなよね。あさひ。』
『いつ見ても飽きないな。』
『所作がなってないな。』
『光秀様の指南、私もうけてみたいです。』
『お前は、受けなくていいぞ?』
『お前達、始めるぞ。』
信長の声に広間は静まり返った。
『披露目において、我が正室となるあさひへの此度の働きに褒美を与える。』
あさひは、信長を見つめた。
『女中、前へ。』
秀吉が声をかける。
静かに中央へ進む。
『名を。』
次は、光秀が声をかけた。
『はっ、はい。咲(さく)と申します。』
あさひより一回りは年上の落ち着いた女中が頭を下げた。
大名に罵倒された悲しい時に寄り添った女中であった。
『咲、そなたをあさひ付けの女中頭とする。』
咲は驚いたように上座に顔を向けた。
「えっ、本当ですか?」
『正室になるのだからな。女中はつけなければなるまい。貴様はあやつに助けられた。顔見知りがよいだろう?』
「はい、わぁ。嬉しい。咲さん、宜しくお願いします。」
『そんな、有り難き…。』
咲は感極まり涙を流した。
『励め。』
信長が優しく声をかけた。