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暁の契りと桃色の在り処 ー香ー

第2章 越後の香りと安土の香り


上座には信長、正面にはあさひ。
それを取り囲むように武将達が座る。

『開けてみよ。』

静かに信長があさひに向かって言う。

「…はい。」

木箱の蓋を開けると、ふわっと懐かしい香りがあさひを包んだ。

「匂袋だ。懐かしい匂い!お線香みたいな…」

あさひの表情が和らぐ。

『白檀か。』

あさひの表情を眺めながら、信長は口を開いた。

「白檀、というのですか?」

『あさひ、知らないのか? でも懐かしいって…」

「あ、政宗。あのね、前の世では、この香りは一般的だったんだ。だから懐かしくて。
よく知ってたなぁ。あ、佐助くんかな。」

匂袋で香りを送ってくるとは… と全員が上杉の思惑に不快感を示す。

「匂袋の刺繍や生地も綺麗。これ、部屋に飾ってもいいで…」

いいですか?と聞きたくて、あさひは信長を見上げる。

すると、眉間に皺を寄せ不機嫌な信長と、同じように不快感最高潮の表情の武将達が目に入った。

(あれ、怒ってる。)

『文も入っているな。』

「あ、え。ほんとだ。」

『あさひ、あんた読めるの?』

「あ、うん。読みやすく書いてくれてるみたい。」

『ちっ、上杉め。』

更に不機嫌になる家康の膝を軽く叩きながら、秀吉はあさひに言う。

『何て書いてある?』

「え?あ、あの…、うーん。」

もうすでに読み終わった文を持ち、あさひは俯き始める、

『貸してみろ。』

さっと光秀が文を取ると、信長に向けて読み始めた。




あさひ

息災か。佐助に安土の銘酒を頼み、これをあさひに届けるようにと指示を出した。

白檀は、前の世でも馴染みのある香りだと佐助から聞いた。
白檀の匂袋を作らせた。俺の好きな白檀の香りで心を落ち着けあさひらしく生きよ。

愛している。



『恋文かよ! 俺の好きな白檀の香りって…』

政宗が一喝する。

『あさひ、これは俺が預かる。』

「駄目よ。秀吉さん。私への文でしょう。」

『こんな文持ってたら駄目だ。』

『秀吉、文は寄越せ。俺が持つ。』

『はっ、御館様。』

『あさひ。』

「はい。」

不機嫌な信長が、どんな事をあさひに言うのかと武将達は、内心冷や冷やしていた。




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