第11章 愛でる想い、護る想い
『姫様がお着きです。』
その声の後、広間の襖が空いた。
『待ちくたびれたぞ! 俺の姫。』
『あんたのじゃないから。』
広間に案内した家康が、信玄に向かって言った。
花柄の桃色から紫に変わるグラデーションの小袖を着て、髪を下ろしたあさひが広間に入ると、その場は華やいだ。
あさひは、信長と謙信、信玄のいる上座へ向かい腰を下ろした。
『体調は、大丈夫か?』
「はい。」
『久々に会えると思えば拐われるなど… 肝が冷えたぞ。』
『無事で良かった。その美しさに傷がつかなくて良かったよ。姫。』
「ご心配、お掛けしました。
でも、会えて嬉しいです。ゆっくり休んで下さいね。」
あさひはにっこりと微笑んで三人に酌を始めた。
宴は、既に酒もすすみ、盛り上がっていた。
三成と佐助の今回の策を褒めちぎり泣き始める秀吉。
褒められている三成は、恥ずかしそうに笑う。
泣き始めた秀吉を唖然と見る幸村。
それを横目にため息をつく家康。
秀吉の話を聞きながら、家康の使う唐辛子の粉の成分を調べる佐助。
光秀は、ゆっくりと酒を飲みながらその姿を眺めている。
『あさひ! お前の好物もあるぞ!』
台所から料理の皿を持ち、政宗が広間に姿を表した。
女中達が、各々の膳に料理を並べる。
だし巻き卵、煮物、焼き魚、青菜のお浸し。
「ありがとう、政宗。お腹すいた!」
『あぁ、夕げもまだだろ? まずは食え!』
『あさひ、政宗の近くで食べてこい。』
信長は、あさひの膳が政宗の隣に出来たことを確認し、そちらの方に、くいっと顎を向けた。
「はい。ありがとうございます。」
そう言って、あさひは政宗の側に座る。
すると、即座に家康が反対側の隣に座り、光秀までもが酒と徳利を持ってあさひの後ろに座った。
『油断できないな。』
謙信がその光景を見て、軽く笑うと酒を口に運ぶ。
『いつも誰かがあやつの側にいる。』
信長が返す。
『姫が春日山に来たら、あんな風に花が咲くのにな。
男ばかりの宴会ばかりだからなぁ。』
『祝言はいつ頃だ?』
謙信が視線はあさひのままで話す。
『今回のことがあったからな…
まぁ、半年か一年か。』
『その前に、越後に来るといい。国境に温泉宿もある。』