第8章 姫の軒猿
『お前、何してるの?』
『偶然、じゃないよな?』
政宗が刀の柄に手をかけた。
『驚かせてすみません。でも、敵ではありません。
我が主、謙信様からあさひさんの護衛を任されていました。』
『はぁ? いつからだ?』
家康が叫ぶ。
『…水差しの件からです。
友好協定ですから、偵察ではなくあさひさんに会うために伺って、あさひさんの危険を知りました。
我が主に報告し、あさひさんの軒猿として護衛していました。』
『披露目の間もか!?』
秀吉が怒鳴り始めた。
『いえ、御披露目の間は越後に戻っていました。
警備も厳重でしたから。
戻る時に、あさひさんが城下に向かう姿を見たので付いていきました。
一部始終見ていましたが、余り隙がなく、下手に出ると犠牲が増えそうなので、敵の足取りを追うのが精一杯でした。すいません、お二人もあさひさんも、守れず…』
『…して、佐助。どこに連れ拐われた?』
秀吉、政宗、家康が後ろを振り返る。
『の、信長様!』
佐助は、すぐに頭を下げ片ひざをついた。
『はっ、この先、国境の小屋におります。
我が仲間が数名張り付いております。
また、他は越後へ報告に行かせました。』
『はっ、抜かりないな。上杉や武田が攻めてくるな。』
『そんな事になれば!』
『時間の問題であろう。一騎でもやってくるだろうな。佐助、そうであろう。』
『はい、おそらくは。』
『あさひは、織田と上杉、武田を繋ぐ糸だ。
何かあれば、どちらの逆鱗にも触れる事を教えてやらねばな…』
信長の纏う空気が変わる。
殺気立ち、凶器に満ちている。
空気がピリピリするような、張り積めて動けない。
『佐助、案内しろ。皆、織田軍総力を出せ。
俺を怒らせた事をとくと後悔させてやる。』
『ははっ!』
武将達は、家臣に指示をし準備が始まる。
ヒタヒタと、片ひざを付く佐助の側に、信長は近付いた。佐助の爪先に、信長の爪先が近付いた。
(やっぱり、織田信長だ、殺気が違う。)
ひやりと背筋が凍る。
『今回は貴様がいたから良かったが…
次に護衛に付く時は、必ず知らせろ。』
『御意。』
佐助は、ふぅ、と息を吐いた。