• テキストサイズ

暁の契りと桃色の在り処 ー香ー

第8章 姫の軒猿


『はい!おまたせっ!よもぎ餅三つね!』

「あ、来たよ!ありがとうございます。さ、食べよう。」

『え、姫様!私共は茶で十分です!』

「…、安土の姫の勧めるお餅、食べないつもりなの?」

あさひは、怒ったように二人を見つめた。

『い、いえ!その様なつもりは…』

「嘘!ほら、食べよう?秀吉さんには内緒にするから。」

『それでは…。有り難く頂戴致します。』

「うん。」

夕暮れの仄かにひんやりした風の中で、三人はよもぎ餅を食べた。

「あ!今食べたら、夕げ食べられないね…。」

『秀吉様に叱られますね。』

「わぁ…、どうしよ? でもいっか。仕方ないし。」

『内緒、ですね。』

両脇に座る家臣を見て、あさひは、ふふっと笑うのだった。




さぁ、城に戻りましょう。と家臣達が立ち上がり、あさひに手を差し伸べた時だった。

ざざっ!

その場にに使わない土煙が舞い上がる。

『何者だ?』

先程までの優しい声色は消え、殺気だった声にあさひの背筋が凍る。

土煙が落ち着いて視界が開けると、あの大名の姿があった。

『貴方様は!お帰りになったのでは?』

『姫様に何様か!』


『…貴様らには用はない。その姫の真似事をする女に用がある。』

『姫様は渡せん! おい!姫様を城へ連れていけ、ここは俺が引き受ける!』

『逃がすか!』

大名の家臣達が後ろを固める。

『もうすぐ迎えが来るのだろう? 今しかないんでね。』

その瞬間。
乾いた音が鳴り響いた。

『ぐあっ。』

『うっ。』

「えっ!」

あさひの前と後ろにいた家臣が、倒れこむ。

「みんな! …ひどい。」

一人はふくらはぎを、もう一人は肩を撃たれていた。

「どうして? 何かしましたか?」

『姫、様…逃げて。』

『我が娘の縁談を断るだけの姫を見に来たが、大したことのない小娘め。

貴様のせいで、あの方は腑抜けになった。
あんな姿、みてられん。上杉との協定など、阿呆なことを抜かし、いつ攻められるか。

貴様が消えれば、あのお方は元に戻られる。
後ろ楯のない貴様など、何の価値もない。』









/ 59ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp