第8章 姫の軒猿
『あさひ、護衛はつけるからな。俺の家臣を二人つける。片付けを終わらせたら俺も追いかける。
信長様、よろしいですか?』
『あぁ、秀吉。貴様に任す。』
『じゃあ、俺も。』
『政宗さん! …じゃあ、俺も。』
『家康、政宗!お前達、することないのか?』
『ないな。』
『俺もないです。』
『あ、私もこの後空いております。』
『三成は、鼻血出たら困るからいい。』
『家康様、心配していただき嬉しく…』
『鬱陶しいだけ。』
『光秀さんは行かないんですか?』
『俺は天守で酒のお供だ。』
『あぁ、光秀。肴に金平糖持ってこい。』
『金平糖を肴に? 御館様!お身体に障ります!』
『はぁー。』
信長が払うような仕草をした。
「あっ!」
『おっ。』
信長とあさひは、見つめあった。
「ふふふ。ほら、またやりましたね。」
『あぁ。やはり秀吉だったな。』
「ふっ。はい。…では、城下に行って来ます。」
『あぁ。気を付けるのだぞ。早く戻れ。』
「はい!」
あさひは、OKサインをした。
『ふっ。』
『信長様? あさひ?』
『なんですか?それ?』
政宗と家康が、二人の見慣れない仕草を、不思議そうに見つめた。
『内緒だ。』
「なーいーしょ!」
信長とあさひが笑い合う。
それを見れば、
あぁ、お二人なら仕方ない。と納得してしまうのであった。
※※※※※
秀吉の家臣を護衛につけ、あさひは久しぶりの城下を楽しんだ。
反物屋を巡り、店主と他愛もない話をして笑った。
歩きながら、菓子屋を見つけ、ふらりと立ち寄って金平糖の小瓶を買う。
「秀吉さんには内緒だよ?」
と、護衛の家臣に言えば、苦笑いをして頷いていた。
『姫様は、本当に身分をお気になさらないのですね。』
無理やりに、一緒に茶を飲もうとあさひに誘われ、茶屋の長椅子に腰掛ける家臣の一人があさひに尋ねた。
「うーん。私、姫じゃないしね。
何事も、知らない人に助けてもらうより、気心知れた人がいいじゃない?」
『はぁ…。』
家臣は、いまいち理解に苦しい返答に首をかしげながらも、その人懐っこい仕草に微笑んでいた。