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暁の契りと桃色の在り処 ー香ー

第8章 姫の軒猿


「皆様、お元気で。」

『息災でな。』

宴の翌日、帰路に向かう大名や家臣を信長とあさひは見送っていた。

『姫様。』

ある大名が声をかける。
信長と、同じ場所にいた武将達は視線をあさひに向け微かに臨戦体制をとった。

「はい。」

『祝言楽しみにしています。

…ところで、姫様は張り子もなさるとか?』

「えぇ、まぁ見習い程度ですが。」

『是非、我が娘に小袖を仕立てて頂きたい。』

「わぁ!信長様!」

『あぁ。次は娘も連れてこい。』

『はっ。有り難きお言葉!』

そうして、大名は頭を下げお付きと共に去っていった。

「なんか、嬉しいですね。」

にやつくあさひに、信長や武将達も微笑み返す。
すると風に乗って桂皮の香りがした。
信長の裾をぎゅっと掴む。

『信長様、お世話になりました。』

『あぁ、息災でな。』

『それでは、姫様。』

「はい、お気をつけて。」

すれ違う瞬間、苦手な桂皮の香りに包まれた。



『大丈夫だ。』

「はい。」

全ての客を見送ると、武将達も皆肩の荷が下りたようにため息をついた。

『ふぅ、何事もなく良かった。』

『あぁ、ご苦労だったな。右腕よ。』

『光秀、お前、何やってたんだよ。』

『あさひの指南だ。』

『はぁ。俺一人で大変だったんだからな。』

秀吉が、空を見上げて、ふぅと息を吐いた。

『皆、ご苦労。大義であった。』

『はっ。有り難きお言葉。』

信長の一言で、誰もが頭を下げ片ひざを付く。

『今日はこの後、暇を与える。好きなようにいたせ。献上品の確認などは明日で良い。』

『ははっ。』

「あ、信長様!」

『なんだ?あさひ。』

「私も暇を頂けるんですか?」

『おい、お前はいつも暇だろ?』

「ちょ、政宗!ひどーい!」

『あんた、いつもぼーっとしてるじゃん。』

「家康まで!

私も、この為に光秀さんの指南頑張りました!」

『ふむ…。
まぁ、あさひも上出来だったからな。仕方あるまい。』

「やったー!  
じゃあ城下にお団子食べに行って、反物屋さんに行ってきます!」

『お前… 本当に姫か?』

光秀の呆れた一言に、集まった家臣達までもが笑っていた。


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