第7章 分かち合う仕草
『光秀、秀吉死ぬんじゃねぇか。』
上座に視線を送り、固まったように動かない秀吉を見て政宗は笑いを堪えていた。
『例の大名は?』
『他のやつらと飲みながらも、ちらちら視線は送ってる。』
『水差しの件もあいつか?』
『桂皮の香り、断った縁組み話。まぁ、恨みはあるかもな。』
『それだけで?』
『あいつは、何故かあさひが後ろ楯がない女であることを知っていた。だから尚更なんだろう。』
『負けた意味、とか?』
『あぁ。まぁ、そんなことで騒ぐなら、器が小さいだけだがな… あはぁ?』
『ぶっ、光秀さん。何ですか?その声。』
『なんだよ。汚ねぇな。吹くな、家康。』
『だって光秀さんが…、…えっ。』
『なんだよ?』
政宗は家康が吹き出した酒で汚れた、畳を手拭いで拭いている。
『ま、ま、ま、政宗さん。あ、あれ。』
家康は上座を指差した。
『あぁ? …… あぁ!』
政宗が上座を見ると…
信長の足が見えた。
よくよく見れば、信長の頭はあさひの膝の上。
膝の上からあさひを見上げ、耳元に垂れ下がる少しの髪を手に絡めている。
あさひは、信長の頭を撫でながら微笑み返している。
周りもその姿に驚きを隠せない。
宴と言えど家臣や大名を招いている。
身内での宴じゃないんだぞ… 御戯れが過ぎすぎる。
五武将は、呆気に取られ動けない。
『ありゃ、秀吉。使い物にならねぇな。』
『火に油を注ぐ、というがここまでとはな。』
『光秀さん、感心してないで。あいつ、上座を凝視してる。』
『いいか、何かしたら直ぐに出るぞ。
あの戯れは…この為だからな。たぶん。』
『…あぁ、たぶんな。』
家臣を見ながらも上座に視線を送る。
ポタポタっ。
『は?』
『い、家康様…』
『わぁ、三成!おまっ、鼻血!』
『刺激が強すぎたか。』
『黙ってると思ったら、お前! 汚れるからこっち向くなよ!ほら、手拭い!』
『政宗様、ありがとうございます…』
『三成…、お前、もう帰んなよ。』
『いえ!私もお二人をお守りしなければ!』
『手拭いあてろって!』
火に油を注ぐ、その策に翻弄されるのは大名だけではなかった。
隣で騒ぐ、家康、政宗と三成を余所に、光秀はいつでも動ける体制で成り行きを見つめていた。