第7章 分かち合う仕草
『…して、あさひはどうした?』
『涙も出さず、着替えに向かいました。』
天守では、光秀が先程の一件を信長に報告していた。
『そうか…。其奴、自分の娘を正室や側室にと書簡を寄越してきたな。』
『えぇ。正室はあさひだけだから、と突っ返しましたな。』
『それが原因か?』
『断言は出来ませぬが。』
『…ふぅ。呆れてものも言えぬわ。』
『これから宴です。どういたしますか?』
信長は、一息ついたあとニヤリと笑って光秀に呟いた。
『…見せつけてやろうぞ。』
『は?』
『其奴に、あさひとの仲を見せつけてやると言っている。』
『火に油を注ぐのでは…?』
『ふっ、光秀。火に油を注ぐのだ。』
『…、ふっ。全く我が主のお考えは未知数ですな。
承知。では、護衛を固めることに致しましょう。』
『楽しくなってきよったわ。』
玩具を与えられた子供のように笑い、にやついた信長は、光秀の肩をポンと叩き天守を出ていった。
残された光秀は、先に起こるだろう事を想像する。
『ふはっ』と笑うと、天守を去っていった。
※※※※※
『今宵は無礼講である! ゆるりと安土の夜を楽しまれよ。』
信長の一言で、御披露目の後の宴が始まった。
信長の隣が空いている。
『信長様、姫君はどちらに?』
一人の大名が尋ねる。
『支度中だが、そろそろ来るだろう。』
そう言うと盃を傾けながら、桂皮の香りを漂わせる家臣へ視線をうつした。
(素知らぬ顔、だな…。
さて、油を注いでやるか。どうなるか。あやつが織田軍の膿であるなら… 裁かねばなるまい。)
無礼講の宴が始まり少し経つ頃には、大名や家臣達は酒が回り始め上機嫌になっていた。
その中にあさひの女中が入り秀吉に耳打ちをする。
秀吉は微笑みながら頷き、信長に伝えた。
『あさひの支度ができたようです。』
信長は口角を上げた。
『長らくお待たせした。我が姫の支度が整った。
…あさひ。』
信長が呼び掛けると広間の入り口の襖がすっと開いた。