第6章 選ばれた理由
一通りの謁見が終わると、宴の準備となり一旦広間を出ることになった。
あさひは、着付けの直しと打ち掛けを宴用に変えるため、自室に戻っていた。
手を引くのは安心出来る女中であったため、少しゆとりが出てしまう。
「打ち掛け、重くて疲れた。」
『よく頑張られましたね。あさひ様、お綺麗で凛として、素晴らしかったですよ。』
「あと宴かぁ。」
『さぁ、違う打ち掛けで、また驚かしてやりましょう!』
「うん…。 あっ、おっと。」
あさひは、安心したのか打ち掛けの裾を踏み、少しだけよろめいてしまった。
『まぁ、大丈夫ですか?』
「あ、大丈夫だよ。ありがとう。」
そう言って、体制を直したその時だった。
『あさひ姫様。』
咄嗟に振り返ると、無表情で立っている大名の姿があった。
『先程の謁見では、ご無礼を致しました。』
単調に話すのは、先程名を呼び打ち掛けを褒めてきた男だった。桂皮の香りがうっすらと香る。
「こちらこそ、遠方より来て頂きましてありがとうございます。」
『…。』
大名は無表情のまま、頭の先から爪先まで視線を落とした。何を考えているかつかめない表情が、不安と恐怖を植え付ける。
「な、なにか?」
意を決してあさひは尋ねた。
女中があさひの一歩前に進む。
一呼吸置くと大名が、ふっと笑い距離を縮めてきた。
小さな声でも話ができる距離になる。
『馬子にも衣装、ですな。』
「えっ…」
『御館様が選び仕立てた極上の打ち掛け…
その簪や帯、帯紐も忠臣の誰からかの贈り物でしょう。
後ろ楯もないとなると、必死ですなぁ。
御館様や忠臣の武将殿達からの寵愛を繋ぎ止めるには何でもするのですな。
針子の様な下働きから…、閨まで。』
あさひの頭は真っ白になっていた。
確かに後ろ楯はない。
それがこの時代どれだけ厳しいことかもわかっていた。
だからこそ、出来ることを精一杯しようとしていた。
『そこまで仰るのは失礼でございます!』
女中の声に我に返った。
『女中の分際で、我に意見を申すつもりか?
貴様が無礼である!
ふふっ。あぁ、やはり無礼な女中が付くような姫君でありましたな。
身の程を知らぬ姫には適任、ということか。
どうやって御館様に取り入った?
あぁ、…床上手か?』