第6章 選ばれた理由
深紅の打ち掛け見えた。
桜の刺繍がきらきらと輝いている。
桜の花飾りと色とりどりの帯紐が光っている。
御台所に結いあげられた綺麗な髪が優しくなびく。
色白の肌に紅がひかれ、見違えるほどあさひは美しかった。
『帯紐、ありがとな。よく似合ってる。』
『俺の髪飾り使ってくれたのか。』
『紅も似合ってる。』
『あとは、所作と振る舞いだな。』
『なんと美しい…』
所定の位置に座ると、武将達があさひを褒め、本当に正室として迎えられることを実感するのだった。
『皆、今日はあさひの披露目だ。わかっておるな?』
『はっ。』
『光秀、あさひの補佐、頼むぞ?』
『お任せを。』
「光秀さん、本当にお願いしますね。」
『ふっ、任せておけ。』
『では…』
「あっ、あの。」
『なんだ?あさひ。』
「終わったら緊張し過ぎてお腹空くだろうし…、政宗の甘味、お願いします。」
『はぁ?あんた、何言ってんの?』
『ははっ、わかった、わかった。たらふく食わせてやるよ!』
『姫の格好は一人前たが、やはりあさひはあさひだな。』
広間に笑いが起こった。
『では、始めよう。』
信長の言葉で、あさひの御披露目が始まった。
※※※※※
織田家所属の大名、支城を守る古くからの家臣。
いつ終わるのかというくらいの人数の謁見であった。
一人が広間に入るなり、小さく名前を光秀が囁く。
大名や家臣が信長に挨拶し話が終わると、必ずあさひの方を向き挨拶をする。
「⚪⚪様、私のためにありがとうございます。」
そう言って微笑む。
それが一連の流れになっていた。
秀吉はその落ち着いた所作に安心しながら、やって来る大名や家臣に目を光らせていた。
『仕掛けてくるなら、今日かもしれぬ。』
信長がそう言ったのは、あさひを迎えに行く前だった。
武将達を揃えさせ、戦の時に見せるような目付きで話始めた。
『水差しを送りつけた主が、今日来るかもしれん。
そうすれば、また必ずあさひに何かを仕掛けるだろう。お前達、全員があさひの護衛だ。』
『はっ。』
秀吉は、思い返しながら何事もなく時が過ぎることを祈った。