第6章 選ばれた理由
「ありがとうございます。」
あさひは顔を赤く染めながら、少しだけ視線を落とし微笑んだ。
『貴様のそのような格好は、特別な時だけにしなければな。俺のためだけに着飾る特別な時だけに…』
「はい。」
『今日は、貴様の披露目だ。俺の隣で座っていればよい。』
「隣…」
『あさひの座るすぐ後ろに光秀が座る。何かあれば助けてくれよう。外には女中を控えさせる。』
「光秀さん、助けてくれるかなぁ?
そうだったらいいんですが…」
『俺の隣は秀吉。そこから、政宗、家康、三成の順で座る。大名や古くからの家臣は、中央に座り挨拶をする。俺は軽く話す。貴様も適当に相手をすればいい。』
「変なこと言わないように頑張ります…」
『ふっ、俺の正室としての貴様の振る舞い、楽しみにしているぞ。』
はぁ、とあさひはため息をもらすと、信長はにやりと笑うのだった。
「信長様、姫様。お時間です。」
女中が外から声をかけた。
「え、あ。はい。…もう広間に行ったら始まるんですか?」
『まず、広間でいつもの奴らに見せ付けてやれ。
頃合いを見て客間の輩を案内させる。』
「はい…」
『ふっ、いつもの活気はどうした? 行くぞ?』
そう言うと信長は、あさひに手を差し出した。
あさひはその手をそっと握る。
すると信長は優しく引き寄せ額に口付けをした。
『紅が取れてはかなわんからな。』
「もう… でも、落ち着きました。」
『よし、では行くぞ。』
そうして、二人は広間を目指した。
信長に手を引かれゆっくり歩くあさひは、艶やかで妖艶で、いつもの誰にでも平等に関わる優しい姫とは別人のようだった。
廊下をすれ違う家臣たちは、目を見開いて息をのみ、すれ違う時に見せる横顔と後ろ姿に目を奪われた。
針子達も、自分達が仕立てた打ち掛けで大変身を遂げ、正室として迎えられる姿に感激し泣き出す者まで出る始末だった。
『着いたぞ。』
広間の襖がすっと開く。
家臣の一人が広間へ声をかけた。
「信長様、姫様お着きでございます。」
信長が広間に入ると、頭を下げた武将達が目にとまる。
『よい、頭を挙げよ。
皆、正室として迎えるあさひだ。』
武将達が頭を挙げるのを確認すると、あさひの手を引いた。