第4章 献上品の罠
ぱたぱたと、足音が近づいてきた。
『三成!どこに行ってた?』
秀吉が、慌てて叫ぶ。
『あぁ、そういえば居なかったね。』
『秀吉様、家康様、ご心配おかけしました。』
『…俺、心配してない。』
『あの水差しがどこから来たのか調べて参りました!』
『えっ!』
『わかったのか?』
『えぇ、全てではありませんが。』
『広間で軍議だ。』
信長の一言で、皆、軍議の間に向かった。
『貴様は俺の側から離れるな。』
信長は、まだ不安で怯えるあさひを軍議の間でも側におき、上座に座らせた。
しっかりと手を繋いで。
何があっても、すぐに抱き寄せることが出来る位置に、座らせた。
『三成、始めよ。』
『はっ。あの水差しは風呂敷に包まれ、今朝他の献上品と共にあったそうです。ただ、送り主の名はなく、どこから混じったのかは誰一人知りませんでした。
風呂敷は、こちらです。』
三成は、信長の前に風呂敷を差し出した。
「シナモン?」
『ん?なんだそれは?』
「なんだか匂いしませんか?」
『匂い…』
『薬臭いんじゃなくて?』
「うん、独特の。私、シナモンの匂い、あまり得意じゃなくて。だからかなぁ?」
『桂皮か。』
「けいひ?」
『白檀や沈香と同じ香木だ。
桂皮は、安土ではあまり出回っておりませぬ。』
『桂皮を扱う大名を洗え。』
『それは、私が。』
光秀が頭を下げる。
『俺のあさひを狙うなど、末代まで後悔させてやるわ!』
泣く子も黙る、というか武将達も黙ってしまうような怒りや恐怖の空気に、広間は静まり返った。
「み、三成くん。」
『は、はい。なんでしょう?』
「水差しを運んだ家臣の方に怪我はなかった?」
自分が狙われたのに何を言い始めるのかと、皆があさひを見つめた。
『え、…はい。大丈夫でした。』
「そう、良かった。」
あさひは、向日葵のような笑顔でふぅ、と息を吐きながら続けた。
「運んだ人は知らなかったとはいえ、危なかったよね。怪我がなくて良かった。」
『お前、人の心配するなよ。』
「でもね、政宗。城のみんなは信長様の為に居てくれてるんだから…」