第4章 献上品の罠
『なんだったんだ?』
秀吉と光秀が口元に手拭いをあて焼け焦げた畳の側へ歩み寄る。
きらびやかな装飾の水差しは、粉々になっていた。
破片の一部も溶けかかっている。
『誰が仕掛けたかはわからんが、…明らかだな。』
『あぁ、わざと目を引くような水差しに入れていたからな。狙いは… 』
『あさひだな。』
二人は声を揃えた後、あさひの方を見た。
そして次の瞬間、初めて見る静かな怒りを纏った信長の姿が見えた。
鬼気迫る形相に、二人は息をのみ、すぐにまた畳の方を向き直った。
『あれ、どうする?』
『俺は知らぬ。』
『知らない訳無いだろ!お前は、織田軍の左腕なんだから!』
『俺はこの送り主を探す。織田軍の世話焼きなんだから、お前がなだめろよ。』
『あんな御館様、見たことないって。どうやってなだめるんだよ?』
『あさひの力を借りるしかあるまい。』
『はぁー。』
織田軍の要の二人は、これから始まる魔の軍議を想像し肩を落とした。
『水汲んできた。喉すすげ。』
「政宗、ありがとう。」
『少し声が掠れてるか?』
『あさひ、薬持ってきた。喉の腫れを抑えるからしっかり飲んで!』
「うん。家康、ありがとう。」
『火傷、なくて良かった。』
「そう、…だね。」
薬を飲み終え、湯飲みを持つ手が小刻みに震えていた。
抱き抱える信長も、側に座る家康や政宗も、すぐに気付くほどだった。
「信長様、あれは… 私宛の献上品ですね。」
『…。そうかもしれぬな。』
「あのような水差し、男の人は使いませんもんね。
…狙われたのは、私かな。
もし、私や誰かが間違って肌に触れたり、飲んでしまってたら…」
『あさひ!』
「光秀さんから指南を受けて、正室として命を狙われる場合もあるって聞いてます。
でも、…本当に起こるなんて。私、どうしたら…?」
『だから!』
家康が、珍しく大きな声を出した。
政宗、秀吉、光秀、信長が、驚いて家康の方を向く。
『だから、俺達がいるんでしょ?
あんたを守るために。あんたは、黙って守られていればいいんだ。』
『そうだぞ。お前には俺達がいる。』
政宗が頭に、ぽんと手を乗せる。
『…だそうだ。あさひ。安心しろ。俺が離さないがな。』
信長のあさひを抱く力が、ぎゅっと強くなった。