第4章 献上品の罠
徐々に皆が品定めを終わり、持ち帰るものを決めた頃…
「あれ、こっちにもあるよ?」
『あさひ、そっちは確認が終わっていないやつだ。触るなよ。』
「わかってる、見るだけだよ。」
「この水差し綺麗だね。細かい部分まで細工がしていて見飽きない。」
『水差し?』
近くにいた家康があさひの側に近づく。
「うん、蓋まで細かい細工で… あれ?」
『何?』
「この蓋…、なんか錆びてる?」
『え? なんだ?この臭い…。』
『臭い?』
『ええ、秀吉さん。薬臭い。』
『なんだ? 薬?』
『あさひ、こっちこい。』
「あ、はい。」
あさひは、慌てて信長の方へ向かった。
慌てていたからか、畳の縁につま付く。
「わぁ。」
『なんで、いつもそうなの?』
手を伸ばした家康に捕まるその時だった。
文机に置かれた美しい細工の水差しが振動で傾く。
「あっ!」
あさひが振り向いた瞬間に、水差しが倒れ中から液体がこぼれ落ちた。
ジュワッー!
畳が焼き焦げる臭いと酸特有の臭いが立ち込める。
「げほっ、ごほっ。」
『あさひ!』
『なんだこの臭い!』
『襖を開け放て!』
『御館様、こちらへ!』
『あさひ、早く!』
「げほっ、げほっ。」
武将達が、信長とあさひを囲み守るように立ちながら部屋の廊下へ移動する。
『あさひ?煙、吸った?』
「けほっ、ちょっと…吸ったかも。」
『怪我は?』
「ない、かな?」
『いや、小袖の裾が焦げてる。液体が跳ねたんじゃないか?』
『足は? 火傷してない?』
『見せろ!』
躊躇なく信長は、あさひを横抱きにして家康の方に向けた。
『大丈夫そうですね。良かった。でも、煙吸ったなら喉が火傷してるかも。水で喉をすすいだ方がいい。』
『水持ってくるな!』
『政宗さん、頼みます。俺は喉の薬持ってきます!』
『あぁ、頼む。』
横抱きにされたまま、あさひは信長の胸のなかに抱かれる。ようやく事態が理解し出し、あさひは微かに焦げた薬臭いの漂う畳の方に目をやった。