第4章 献上品の罠
それから数日たった軍議の後、献上品の部屋には武将達とあさひ、信長が集まった。
献上品の確認が終わったとの知らせが届いたからだ。
『あっちの隅にあるのは、確認がまだだそうです。』
『わかった。皆の日々の働きの褒美だ。好きなものを選べ。…だが、ほぼあさひに向けたものが多いな。
持ち出す前に、あさひの好みか聞くとよい。』
「え、なんで私向け?」
『そりゃ、信長様の正室になるんだからな。ご機嫌取りだ。』
「へぇ。」
『小娘が偉くなったなぁ。貴様の好みは甘味だろうに。』
「こういう品も好きですから! もう、馬鹿にしてぇ。」
『むくれてないで、こっち来なよ。綺麗なものばかりだから。』
家康が手招きする。
そこには、贅を尽くした細工の文箱や硯箱、化粧箱が並ぶ。
「わぁ。すごく綺麗…。使うのが勿体無い。」
『なんで?あんたにだよ?』
「だって… 文箱や硯箱は三成くんが、化粧箱は家康からのがあるし大事に使いたいし、私はそれで十分だもん。」
『あんた、さらっと恥ずかしいこというね。』
「え?でも、大事に使いたいのは本当だよ。」
『まぁ、物を大切にするのがあんたの良いところだけどさ。』
家康は、嬉しそうに微笑んだ。
『ほら、この反物は?』
次に声をかけたのは政宗だった。
「え、すごい!」
『だろ? この質のいい品は安土じゃ手に入らないぞ?』
「ほんとだぁ…。すごく綺麗。小袖には勿体無いから羽織とか打ち掛けかな。」
『久しぶりに自分の為に仕立てたらどうだ?』
「うーん。自分のかぁ。
あっ!見て、青に緑、橙や紫もあるよ!
皆の羽織、また仕立てられるね!」
『お前なぁ… 自分の為の品ばかりなのに、俺たちの羽織って、人が良すぎるぞ?』
「でも、嬉しいことは皆で分け合う方がいいでしょ?」
『まったく、お前は。』
「信長様、この反物頂きたいです。」
『好きにしろ。』
欲を出さず、誰に作ろう、何を作ろう、と他の者への気配りばかりを考え目を輝かせるあさひを、誰もが優しく見つめていた。