第3章 夢と現
「信長様…」
『愛だの恋だの目に見えぬものなど、必要ないと思っていた。俺は沢山の犠牲の上に立ち、そんな夢物語とは無縁だと思っていた。
だが、お前が現れた。
俺を愛していると言う、共に生きたいと言う。
俺の罪を共に背負わせる運命を、引き受けると。
いつからか、俺は、お前を愛していた。
バカにしていた愛だの恋だのを俺は心地よいと感じていた。
貴様のせいだぞ。もう戻れぬ。
責任、とれるな?』
そう言うと信長は、あさひの顔だけを自分に向け口付けをした。
「んっ、んんっ。」
『貴様の体は、俺がいないと静まらないだろう?』
あさひと信長の視線が合う。
「後悔は…」
『するわけがないだろう。』
信長は、ぐぐっとあさひを自分の方に向かせると強く抱きしめた。
「信長様。」
『まだなにか言うか?』
「約束を、してください。」
『約束?』
「私は、やっぱりまた不安になります。信長様にはくだらないことでも、私は気にやむ。
だから、そうしたら…」
『そうしたら?』
「守ってください。」
『守ると先程から申しておる。』
「体じゃなく、心を。壊れないように、沈香の香りとあなたの熱で… 余計に傷付かないように守ってください。」
『ふっ、承知した。
では、今宵も守るとしよう。』
信長は、あさひを横抱きにし褥へ向かって歩きだす。
「守ってください。不安を忘れるほどに。」
あさひは、信長の首に手を回し、頬に口付けした。
『いつになく、積極的だな。それもそそるがな。』
信長は、行灯の灯を吹き消す。
夕闇に輝く月はまだ光が淡く、部屋の中は薄暗い。
だが、月明かりが届くまで時間はかからないだろう。
あさひの不安が消える頃には、きっと夜空は満点の星空で、月が輝く。
信長の腕の中で、月明かりに照らされて、愛は紡がれていく。
夢物語が現に変わるのを、二人は確かめ合うのだった。