第1章 戦いの後
「ほら、馬鹿げた話でしたでしょう?子供じゃあるまいし、今さら、、、もう何日も経っているというのに私、、、」
自嘲気味に笑ってみせた顔に無性に腹が立った。
普段、愛想笑いの一つも見せないコイツがそんな風に笑うくらいなら、いつも通りブスッとしていた方がまだ気持ちが良い。
ゴツン!
アオイの言葉を遮って、その広い額に思い切り頭をぶつけてやった。
「痛い!もう、、、何するんですか!」
赤くなった額を押さえながら、アオイがこちらを睨みつける。
だがアオイにどんな顔されようが、どんなに痛がろうがそんな事はどうでも良かった。
「何回も言わせるんじゃねェ!!ちゃんと全部言えっつっただろーが!笑ってごまかすな、この、ボケナス!!」
「ボケナス、、、!?」
ただ胸が締め付けられたように痛かった。
俺はアオイの頭に手を添えた。温かい温度が手に伝わる。
「、、、俺は馬鹿げた話だなんて思わねェ。子供だとも今さらだとも思わねェ。これでも、しのぶがお前らにとってどんな奴だったかは分かってるつもりだ」
「、、、っ」
アオイの瞳から堰を切ったように涙がポロポロと床に落ちる。
「伊之助くん」
目を瞑ると、しのぶの声が頭に響いた。暗い廊下の先にホワホワとした光を纏ったその姿が見えた気がした。
あぁ、痛ぇ。
きっとアオイにとっても同じくらい。いや、もっともっと大切なもの。
「しのぶの話をすることのどこが馬鹿だ。悲しむことのどこが悪い。そんなこと言う奴は俺がぶっとばしてやる。俺はちゃんと聞くって言ったはずだ」
俺にはその責任がある。
もっと早くあの場に辿り着くことができていれば。
もっと俺に力があれば。
守ることができただろうか。
一緒に帰ることができただろうか。
この場所に。
「う、、、うう」
そんな何度も、夢に見るほど何度も頭に浮かぶ問答を。
そんなこと考えたってどうにもならないと、浮かんでは消して。
「私が戦えていたら、、、もっと強くて、しのぶ様と一緒に戦えるような人間だったら、しのぶ様は今もここに居てくれたかもしれないと思うんです、、、っ」
逃げて逃げて、見ないふりをしてきた痛みから。
しのぶ、もう大丈夫だ。
もう俺は逃げない。
気づかないまま、1人で泣かせたりしない。
俺は廊下の先をしっかりと見据えた。