第1章 戦いの後
「ハッ!」
起き上がった瞬間に身体中に痛みが走った。
「ッテ!!、、、!?、、、?」
見覚えのある天井、懐かしい匂い。
窓からこぼれる暖かな日差し。
安心しろと言うようにカーテンをなびかせる風。
ここは、しのぶの屋敷か、、、。
ガンガンと痛む頭に少しずつ記憶が蘇ってくる。
あぁ、そうだ。俺は運ばれたんだ。
あの、戦いの後、、、
ボーッとする頭であの日のことを思い出す。
ぼやける視界に映っていたのは何度も通り慣れた道。
任務の後、何度も帰ってきた場所。
何度も通った門を、隠の人の背に乗ったまま通り過ぎた。
その門を通って最初に浮かんだのは、しのぶの顔。
亡骸さえ残らなかった。
しのぶ、、、。
思い出して、溢れた涙を拭くこともできなかった。
もうあの声も、あの笑顔、怒った顔も見ることはできない。
主人を失った屋敷はまるで色を失ったみたいに見えた。
「皆さんッ!こんなになるまで、、、ッ?早く、早くこちらへ!!」
そんな屋敷に響き渡る声。
「、、、!」
隠の人に背負われながら聞こえた声に、朦朧としていた意識がはっきりとした。 そしてその瞬間、屋敷全体が色を取り戻した。
この声は、アオイだ、、、!
視線だけを動かしてその姿を捉える。
綺麗な額は汗で月の光を反射して、意志の強そうな顔立ちは少し疲れているように見えた。
けれど落ち着いた気の強そうな物言いは相変わらずだった。
「、、、。」
彼女はしのぶの報せをどんな顔で聞いたのだろう。
主人のいないこの屋敷の中で、一体どんな気持ちでいたのだろう。
心配で申し訳なくてたまらないのに、なぜかその声に、その姿にホッとして、
「ア、、、イ」
「何ですかッ!?とにかくじっとしていて下さい!!あッ!その方はこちらへ!!」
必死で場を切り盛りするアオイの頬に、震える手を伸ばして言った。
「、、、ただいま」
帰ってきたんだ、やっと。
あの、地獄から。
アオイの柔らかな頬の感触。
温かくて涙が溢れた。
それがあの日の俺の最後の記憶だった。