第1章 戦いの後
「ゆびきひげんまん お守りしましょう 約束しましょう」
痛みで朦朧とする意識の中で、ずっと聞こえていた母の声。
母ちゃんなんていないと思っていた。
寒い雪の日も、誰かに触れたい夜も、ずっと1人だったから。
愛おしいとか守りたいだなんて思われたこともなかったし、思ったこともなかった。
『誰にでもいるよ、お母さんは』
そうだな、いたよ、権八郎。
俺にもいたんだ。
「あったかいねぇ、伊之助は」
優しく撫でらた額も、擦り合わせた頬も全部、
記憶の中で温かなまま。
思い出したものが温かすぎて涙が出た。
『伊之助のこと大好きだったと思うよ』
お前の言う通りだった。
俺も誰かに愛されてた。
だけどな、なんでかな
嬉しいのに悲しいんだ。
心が重くて、動けそうにないんだ。
せっかく思い出したのに、同時にそれを失くしたことも知った。
失ったものの愛おしさに涙が止められない。
夢の中でも分かる。
頬に伝う冷たいもの。
喉の奥が痛いのが分かる。
、、、俺、泣いてんだ。
止まれよ。
寝ながら泣くとか、カッコ悪いんだよ。
だけど
母ちゃん、母ちゃん、、、
月明かりに照らされた母ちゃんの顔がゆっくりと小さくなっていく。
俺は暗い崖下へゆっくりゆっくりと落ちていく。
今にも止まりそうなくらいゆっくりなのにその手には届かない。
俺はこの小さな俺の手を憎んだ。
ずっと側にいてくれよ。母ちゃん。
約束したじゃないか、守ってくれるって。
母ちゃん1人あの場に残して俺はただ泣きじゃくるだけ。
夢の中でさえ、救えない。
俺も、大好きだったよ。
幸せだったよ。
泣きながら微笑む母ちゃんに
そんなことも伝えられずに
ただ、落ちていく。
アイツの影が母ちゃんの背後に浮かんで月が隠れる。
こぼれ落ちる涙も、その黒い手も、止められない。
俺は、、、無力だ。
どうせなら一緒に死なせてくれたら良かったのに、、、
母ちゃん、、、。