第1章 戦いの後
「だからお前はちゃんと言え。お前の言うことだったら、なんでも、全部聞く。だからこんなとこで1人で泣くんじゃねェ。分かったか?な!」
私は目の前でそう叫んだ猪頭をまじまじと見た。
変な被り物のせいで今どんな顔をしているのかは分からない。けれど、この人が本気で心配してくれていることだけは確かだ。
「そんなこと言ってしまっていいんですか?」
「ア?」
不思議そうに猪が首を傾げる。
私は思わず笑ってしまいそうになった。
「本当に何でも、、、?馬鹿みたいな理由かもしれませんよ?」
「ああ!全部言え!隠し事なんざ気持ち悪くて仕方ねェ!!」
そう言って伊之助さんは自分の肩を抱いて身震いさせた。
泣いていたのは本当だ。
だけどそれは夕方の一件のせいじゃない。この人のせいだなんてとんでもない。
「泣いていたのは、、、あなたのせいではありません。ただ、、、ただ私はご報告をしていて」
「は?報告?」
心底不思議そうに首を大きく傾げる伊之助さん。
「しのぶ様にです。伊之助さんに続いて、善逸さんも無事目を覚ましたと、しのぶ様にご報告をしていました。ただそれだけです」
「それで、何で泣くんだよ」
喉奥が痛い。私は溜息を吐き、平静を装った。
「知っての通り、しのぶ様はお優しいんです。いつも言ってくれたんです。アオイはちゃんとできているよ、と。アオイにならできるよ、と」
本当の姉さんのように思っていた。
家族の仇を討つ為に鬼殺隊に入ったくせに、鬼が怖くて戦えない私に医術を教えて、居場所を作ってくれた人。
カナエ様を失ってからも、自分が柱になることで、この場所を必死に守ってくれた人。
大好きだった。
「私、善逸さんが目覚めたことを報告しなくてはと思って。ここに来て、思い出してしまったんです」
月夜に浮かぶ小さくても凛とした綺麗な背中。
不安で押しつぶされそうになった時、いつもここで励ましてくれたこと。
「そして実感したんです。もう、上手にできたねと頭を撫でてくれたあの温かい手はここには無いんだと」