第1章 戦いの後
「うっせー!テメェら何か悪口言ってただろ!?」
「伊之助さん、やめてください!」
必死に止めようとするが、伊之助さんの体はピクリともしない。
「っつーか、しこめって何だよ!ワケ分かんなェこと言いやがって!」
「は?何言われてたかも分からないくせに悪口言ってたなんて、よく言えたわね!」
「うるせ!何か嫌な感じがしたんだよ!とにかく!どう言う意味だか教えろ!!」
「クスクス、本当に馬鹿みたい」
「猪だから仕方ないわよ。醜女ってのはね、不細工な女ってことよ。化粧もしないで日に焼けた、その子みたいな」
「クスクス、そんな風に言ったら可哀想よ」
「、、、」
思わず私は目の前にいる子達と自分を見比べた。
綺麗な簪に綺麗な着物を着た彼女達の肌は、確かに羨ましいくらい白く、髪にも艶がある。そして良い匂いもした。
鏡に写ったしのぶ様のように笑ってみてもサマにならない自分。
どちらが良いかと聞かれたら、きっと誰もがあっちを選ぶと思った。
悔しい。けれど経験からわかっていた。悔しがったって仕方がない。
だって私には、しのぶ様のような美貌も、着飾る何かをくれる親もいない。親をなくしたあの日から、そんな何かを欲しいと思うことは許されないと分かっていた。
だから、俯く必要もないはずだ。
「伊之助さん、行きましょう」
さっきよりも語気を強め、力一杯に伊之助さんの腕を引いた。けれどその手は乱暴に振り払われた。
「いいかテメェら、アオイが不細工!?ハァン!?どこに目をつけてやがる」
大声で相手を捲し立てるその声に、私は思わず少し背の高い彼の顔を見上げた。
「こんな格好してんのだって、日に焼けたのだって、全部こいつが頑張ってる証なんだ!それにアオイはそんなチャラチャラしたもん付けてなくったって、テメェらなんかよりもずっと!!」
期待していたわけじゃない。
そんな、自分には無いに決まっているものを期待なんかしてはいけないのに。
「ずっとアオイの方が綺麗だろうが!!!いいか!もういっぺん言ってみろよ!次はテメェら許さねぇからな!」
この人は一体何を言い出すんだろう。
そんな風に言われると泣きそうになってしまうじゃないか…。
私はその猪頭から目を逸らして俯いた。