第1章 戦いの後
市場は夕方の買い出しに来た客で賑わっていた。
「おっ!何だコレ!なぁ、アオイ、この細長い刀みたいなのは、なんて言う!?」
「、、、それはサンマです」
伊之助さんはやたらとはしゃいでいる。
もしかして市場に初めて来たのだろうか。
「うおっ!何だお前っ!トゲトゲしやがって!ケンカ打ってんのか!って、いてっ!コイツ、刺しやがった!このやろ、ぶった斬ってやる!!」
「やめて下さい!それはウニですよ!あなたが素手で触ったから刺さったんでしょう!?」
「ウニ?知らねーぞ、んなもん!こんな黒いやつ、絶対何か企んでるに決まってる!」
「馬鹿ですか!?すみません、すぐにあっちに行きますので!」
こちらを睨むお店の人に謝り、伊之助さんを引っ張る。
ウニを知らないなんて、どこの山の民だ。
どっちにしろ、疲れる、、、。
「はぁ、、、」
一通りの買い物をやっとのことで終えて、私は階段に座り込んだ。
「何だもう疲れたのか?普段の鍛錬が足りないんじゃねぇか?」
「誰のせいですか、誰の」
というか、この人は本当に全ての荷物を持ちながら、あちこち走り回っているけれど、まだ怪我は治りきっていないはずだ。
鍛えていたとしても痛みはあるはずだ。
「そろそろ、帰りましょう。荷物、半分貸してください」
「はぁ?いいよ、テメェはもう少し休んでろよ」
自分の方が辛いはずなのに。
それに早く帰らないと熱が出てしまうかもしれない。
包帯を巻いた上半身を見て、連れてきたことをやはり後悔した。
「あの、、、」
言いかけた私の耳にヒソヒソと話す声が聞こえた。
「えー何あれ」
「クスクス、ちょっと笑ったら失礼よ」
声の方を見ると、同じくらいの年頃だろうか、ちょうど簪屋から出てきたらしい綺麗な着物を着た女の子達と目が合った。
「ほら、聞こえてるじゃない」
「えーだって、男みたいな恰好した醜女の子と、あれって猪?なんか怖いんだもん」
「、、、伊之助さん、行きますよ」
「何だァ、コラ!何か文句か!?」
立ち上がってその腕を引こうとしたのと同時に、伊之助さんが女の子達に突っかかった。
「やー臭い!こっち来ないでよ!」
「何よ、大声出すわよ!」
まずい。