第3章 求愛エモーショナルチェンジ!【ケイト甘夢】
でも、これは気軽に第三者に話していい内容ではない。
だから、これは人を守るための嘘
仕方ないのだけれど。
ケイトの目が鋭く光った。目が細まっていて、冷たい雰囲気が出ている。
私たちのやり取りを見ていたのか、リリアが後ろから来ておかしそうに笑った。
「カリムも隅に置けんのお」
ぼそっと何かを呟いていたが、それには誰も反応しない。
内容までは聞き取れなかった私とカリムはお互いの顔を見合わせて首を傾げた。
ケイトがぴくりこめかみをひくつかせたのは、誰も気付かなかった。
部活終了時刻を告げる鐘が鳴る。
それに合わせて楽器を片付けていく生徒を見ながら、やはりカリムに元気がないことが気になる。
カリムの性格からして、1人の時間を作るより誰かに寄り添ってもらう時間を増やした方が傷は癒せるだろう、と私は考える。
「スカラビア寮まで着いて行ってもいい?」
「あ、ああ…ありがとな」
いつもなら「先生が来るなら宴を開こう!歓迎するぞ!」くらいは言うはずなのに、彼は力なく笑うだけだ。
…心配という言葉では足りない。
しばらくはこの子をよく見ておかなければ、と決意していればやはり決まって話しかけてくるのはケイトである。
「え〜なになに?ちゃんセンセー、カリムくんと一緒帰るの?
オレもついて行っちゃおうかな〜」
どうしよう。
ケイトの明るさが今のカリムにとってどう出るかわからないため、ちらりとカリムの様子を窺う。
しかし、カリムはやはり笑った。
「ああ、みんなで帰った方が楽しいもんな!
一緒に帰ろうぜ!リリアもどうだ?」
見ていて不安になるくらいの底抜けの明るさが不安定に見えて、胸が痛んだ。
しかしそれを気にしないのか気付いていてあえてなのか、リリアは「わしは遠慮しておく」と言った。
マレウス関係で何かあるのかもしれない。
そうか、とカリムは気にした様子もなく笑う。
「お疲れ〜」
また明日、なんて言いながら音楽室の部屋を閉めて解散だ。
一緒に帰るのはいいものの、しかしカリムにどう話を振ればいいかわからない。これ以上ないほどの明るい人のはずなのに、会話はあまり弾まなくて、ケイトも何かを察したのだろう。
スカラビアが近づくたび、言葉は少なくなっていった。
「じゃあ…ね」
おやすみ、とカリムに手を振ってそのままハーツラビュルに向かう。